2016年11月5日土曜日

黒田博樹が届けてくれた41年前の忘れ物


ブログでは一応「最後のあいさつ」はしたつもりでしたが、あらためて優勝の祝賀バレードでねぎらいのことばをかけてきました。

黒田博樹投手のきのうの引退記者会見を観て、また胸がザワザワざわついてしまったせいでしょうか。
思い立って、チャリを転がして出かけることにしたのです。

カープが初優勝したときのパレードは、東京にいたために見ることができせんでしたから、まあ41年前の忘れ物を取りに行ったという意味もあるのですが。

正直いうと、なにごともなければあのテレビの中継、彼の引退会見を見過ごしていたかもしれません。
普段はめったにテレビは観ないので、テレビ番組に目を通すこともなく、記者会見の中継があること自体を知らなかったからです。

ただきのうは、早朝にFaceBookのメッセージ欄に某テレビ局から「黒田博樹投手について、お話を聞きければ」という依頼が入っていて、そのことを家人に話していたこともあって、彼の特番があることを直前になって彼女が教えてくれたのです。

それで、あさましくもコメントの材料を漁る気持ちもあって、あわててテレビのスイッチを入れて、彼の引退会見を食い入るように観ることになったというわけです。

結局、某テレビ局の番組はきのうオンエアの番組で、その当日に気づいて開いたというお粗末さまで、「なんのこっちゃ」のオチだったのですが、これも何かの縁だったのでしょう。

                   ❇

黒田投手の会見といえば、カープに復帰する際の一連のものは、ことがことだっただけに強烈なインパクトのあるものでしたが、今回もまた印象深いものでした。

こんな表現があるかどうかしりませんが「会見巧者」ですね、彼は。
記者とのやり取りが、えもいえぬ味わいがあってある種の格調すら感じます。

質問に対して、はぐらかしや嘘がなく、まっすぐに答えてくれる。
だから、そのひとことひとことが淀みない。

それで好感がもてるし、引き込まれるように聞いてしまうんですね。
とくに最近では堂に入ってきて、ユーモアまで交えてくれるのですから。

「新井がこのあとFA宣言の記者会見するらしいんで、できればそっちに行きたいかな」

このジョークが出たときは、会見場鷲づかみの大爆笑でしたね。

上質の問答劇を堪能したような感動すらあって、20分あまりの会見が、またたくまに過ぎていました。

それは黒田博樹というキャラクターがあってこそ演出できるもので、たぶんいまの日本のプロ野球選手でこんな存在感を持った選手はいないでしょう。

—引退したまの心境は?

会見の冒頭だったでしょうか、代表質問で聞かれて彼は澱みなく答えていました。

「安心(安堵)した」

と。

そのことばを聞いて、多くのファンも安堵したことでしょう。
彼が未練なく引退してくれることを確認できたのですから。

—現役生活を振り返ると?

こうも聞かれて、

「出来過ぎの現役生活でしたね」

これも間髪入れず、彼は口にしてました。

「出来すぎた現役生活を終えて、安堵している」

このことばは、彼のいつわらざる心境であったと同時に、われわれファンに対する最大のハナムケのことばにもなったはずです。

ぼく自身も素直にうなずけたのは、彼の心境がわかると同時に、意味あいはちがいますが、こちらにも安堵したような気持ちがあったからです。

というのも、黒田博樹という選手が現役でいる限り、いやでも彼と向き合わざるをえない。
とくに物書きのようなことをしていると、ファンとしてばかりではなく、つい対象として彼を見てしまう。

すると黒田投手の大きさ、はかりしれない人間力に、ともすれば圧し潰されそうになってしまいそうな強迫観念のようなものさえ感じてしまっていたからです。

しかも、彼を意識すればするほど、どうしても自分の至らなさに思いがいってしまうようなところがあったのも事実です。

そんな緊張感というか、強迫観念がら自由になれる。
そんな安堵感を、彼の引退会見を観ながら思ってもいたのです。

彼はまた、これからの身のふり方を訊かれて「しばらく野球の世界から離れたい」との意向も表明していました。

それを耳にしたとき、「これでようやく黒田博樹から引退して、この2年間つづいた黒田現象の熱気から解放される」と、胸を撫で下ろしたことも事実です。

いつまでも見ていたい投手であるのに、いつまでも見ていることができない投手。
変な表現ですが、今シーズンの黒田投手は、ぼくにとってそんな存在だったのかもしれません。


選手や首脳陣、関係者を2階部分に乗せてパレードしていったバスは、肉眼では顔がはっきり判別できないほどの距離を移動していって、どれが黒田やら新井やらわかりませんでしたが、とりあえず全車両が過ぎ去ってから、ひとりひっそりと声をかけました。

「黒田お疲れさん、ありがとう」と。

そのとき、なぜか突然に目頭が熱くなってしまったのに自分自身が戸惑ってしまいました。

あの熱狂のペナントレースを制してカープが優勝し、黒田と新井があの感動的な抱擁をしたのを目にしたときですら意外に冷静だった自分だったのに…。

ただ梢の影にパレードのバスが消えて行くのを見送っただけなのに…。

でも、このひと粒の水滴にもならなかった涙のおかげで、ぼくの2016シーズンもようやく大団円を迎えることができました。

ささやかな感動で最後にゴールのテープを切ることができたのですから。

たしかこれまで口にも活字にもしなかったこのことばも、やっとストレートにいえるような気がします。

「広島東洋カープ、優勝おめでとう!」


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