2016年10月13日木曜日

三浦九段への処置は“敗着”ではないのか?


昨日、カープとベイスターズのクライマックスシリーズの対戦感想のなかで、将棋をたとえに出したが、その同じ日に棋界から激震が走っていた。

なんと、さきごろ竜王戦の挑戦者に決定したばかりの三浦弘之九段の挑戦権が剥奪されたばかりか、年内の出場停止処分が将棋連盟から同日付けで通告されたという。

三浦九段が対局中に頻繁に離席していたのが、スマホで将棋ソフトを不正に使用していたのではないかと疑いを生んだ。
その件で連盟側から求められていた竜王戦への出場辞退願いを期限までに提出しなかったために、連盟側の判断でこの処置が決められたのだという。

不正疑惑が原因ではなく、連盟との約束を保古にしたのが処分の理由だという。

いやー、ぶったまげました。
これはへたをすると、棋界の功労者の棋士生命が奪われかねない事態ですからね。

将棋界は特殊な世界で一般社会から距離があるということもあって、不祥事とは縁遠い世界という印象が強い。

かつて女流棋士の元名人との不倫が話題になったことはあったが、あとはにわかに追い出すことはできない。
しいてあげれば大昔に「陣屋事件」があったことくらいだろうか。

小生が生まれる前年、昭和27年のこと。
当時人気絶頂だった升田幸三九段が木村義雄名人との王将戦の前日、会場となっていた陣屋に出向いたところ、陣屋側が出迎えにこなかったと怒ってよその旅館に投宿、そのまま対局をすっぽかしたことが、当時は一大スキャンダルとなった。

升田には升田なりの深慮があったようだが、とんでもない不祥事だ。
将棋連盟は升田の除名まで検討したが、升田が所属していた関西将棋連盟が強硬に反対して升田はなんとか除名を免れた。
そんな事件だった。

みずから対局を忌避したわけで、エントリー権を剥奪された今回の“三浦事件”とは真逆のケースだった。

メガトン級のスキャンダメといえば、まあこんなもので、あとは棋士同氏のプライドをかけた喧嘩とか、才気あふれるがゆえの奇行めいたエピソードがいいところ。
そんなこんなが巷間に語られることはあっても、大スキャンダルが持ち上がったというケースはほとんど記憶にない。

それにしても、この話題がけさのNHKのニュースでとりあげられたというのにも驚いた。
ネットで検索してみたら、辛坊とかいう電波芸者も番組で取り上げていたようで、例によって鬼の首でもとったようなヒョットコ顔でコメントしていたのだろう。

いよいよ将棋界も芸能界のようにメディア情報スピンアウト用のための草狩り場にされようとしている気配も感じられて、気が滅入る。

それはともかく、今回のスキャンダル。
連盟は慎重に熟慮したのか、はなはだ疑問だ。

三浦九段の代わりに挑戦者に繰り上げられた丸山忠久九段が、今回の決定に表向き喜ぶことはできないにしても、はっきり否定的なコメントをしていたのに、そのことが見てとれた。

「連盟の決定には個人的には賛成しかねますが、竜王戦は将棋の最高棋戦ですので、全力をつくします」

彼はそういって、連盟の判断に疑問を呈していた。(このようなデリケートな問題には言葉を濁す棋士がおおいなかで、はっきりと見解を述べている丸山九段には感心させられた)

つまり棋士のすべてが納得した処置ではなかったということらしい。

もしかすると連盟内の派閥争いがこんなかたちで噴出してしまったという側面もあったのかもしれない。

ここ最近は運営予算ほしさからだろう、なんとなくイカガワシい企業が冠となった棋戦が散見されるようになった。

これも時代といえば時代なのだろうが、将棋というコンテンツが食い荒らされるのではないかという不安は強い。

協賛をするからには、クライアントはなにがしかの見返りは要求するだろうし、連盟はそれをムゲに袖にすることはできない。
 連盟に土足で入って来たり、もしかすると人事にまでクチバシをつっこんでくる輩も増えて来ているのではないだろうか。

そんな事態が背後にあっての派閥争いだったり、かけひきだったりが今回の不祥事の底流にはあったのではないことを願いたい。

 ついこの前まで、「コンピュータがプロに勝つことは永遠にない」とまでいわれていた。
とろが、またたくまに将棋ソフトがプロの実力を凌駕してしまった。

その現実を前にしてあわてふためいたとき、連盟そのものが有象無象のクライアントにがんじがらめになっていた。
そんな景色がぼやりと目の前に映じている。

将棋界のクライアントは長く新聞社で占められていた。
朝日、讀賣、毎日新聞といった全国紙をメインに、全国の地方紙が協同でタイトル戦を主催し、その協賛金が主に連盟を支えて来た。

そのなかでの同業者間の主導権争いはあったものの、基本的にその構図はかわることがなかったし、“聖域”は守られてきた。

それが変質しはじめたのは、前任の米長邦夫会長あたりからだったろうか。
経営での優れた手腕が、逆にあらぬものまで引き入れてしまったということはなきにしもあらずだろう。

今回の件では、もし三浦九段が限りなく黒に近いグレーだったとしても、その事実は連盟内でとどめておくべきだったと思う。

将棋ソフトへの対策はこれからのことだ。
どのように対処していくかは、連盟内部もまだ暗中模索の状態なのではないか。

それが固まっていか
ない前に、人身御供のように棋界の重鎮を軽軽に葬るようなことはすべきではなかった。

これからはじまる竜王戦では、金属探知機を導入して対処することを決めたばかりだったというし、そんなルールづくりのなかで三浦九段に改心を促すということでもよかったのではないか。

疑わしいことができる環境を放置してきた連盟におとがめはなく、離席してはならないというルールがない現状で離席した棋士にのみに責を追わせることはアンフェアではなかったのではないか。



0 件のコメント:

コメントを投稿