2016年10月20日木曜日

ネットで見せた“羽生マジック”

ふたたび将棋界の話題です。

三浦弘之九段のコンピュータソフト不正使用問題について、羽生善治三冠が奥さんのツイッターからコメントを発するという奇手を放った。

これも「羽生マジック」といってもいいかもしれない。(笑


ネットのニュースにれば、週刊文春の取材で「三浦九段が灰色に近いと発言した」とコメントしたのが、記事には「連盟の島朗九段に“限りなく黒に近い灰色”とメールを送った」と書かれたとして、ツイッターで弁明しているとあった。


さっそくウラをとるためにツイッターを確認したが、たしかに羽生三冠本人がコメントを残していた。


「灰色に近い」と「限りなく黒に近い灰色」では、将棋にたとえれば「優勢」と「勝勢」ほどにニュアンスはちがう。


まあこの程度の誤認と脚色は週刊誌では許容範囲、日常茶飯事のことで、筆がすべったほどの自覚もないだろうが、「優勢といった」のを「勝勢と伝えた」ように書かれたんでは心外だろう。

そのことであらぬ誤解を招いては、と危機感を持つのは当然だ。

それで羽生三冠は「妻のツイッター」という非常発信ツールで、オフィシャルに見解を発表したわけだが、ことの本心はほかにあったようだ。


記事の見出しにもあったように、「疑わしきは罰せず」。グレーだろうと、限りなく黒に近いグレーだろう、真っ黒でないかぎりは罰するべきではない。それが自分の見解だということをあらためて伝えたかったのだろう。


つまりは丸山忠久九段と同様、今回の連盟がとった「年内の対局禁止」の措置を間接的にではあるが否定しているようなのだ。


なんでもきょうの夕方、ネット上でこの事件を検証した文春の記事が配信されるらしい。その前のタイミングで、このコメントを発したということは、記事では「総意」として三浦九段への処置が決められたということになっていて、そのことに対する牽制の意味もあったのかもしれない。


どっちにしても羽生三冠ほどの重鎮が“マジック”を使って意志を表明せざるをえない状況、連盟の意思の決定と結果が不透明なことなどなど、どうもきな臭さが漂ってきて仕方がない。


ここであらためて今回の事件をざっと時系列にそって整理してみると下記のようになる。


10月7日

過去の対局のコンピータとの一致率などを検証した結果、まちがいなく不正をしていると確信した渡辺竜王が島朗理事に事情を説明

10月10日

渡辺竜王、島朗九段のほか将棋連盟会長の谷川浩司九段、羽生三冠、佐藤天彦名人らのトップ棋士が7人集まって極秘に会合が開かれる
その席で渡辺竜王から説明を受けた出席者たちはほぼ全員がグレーの印象を持ち、シロと認識した棋士はいなかったという

10月11日

将棋連盟の常務会が三浦九段を招んでヒアリング
三浦九段は疑惑を完全否定したものの、「疑惑をもたれたまま竜王戦には出場できない」と応酬これが言質にとられ、三浦九段は連盟側から翌日までに不出場の書面を出すように要請される

10月12日

三浦九段が書面を提出せず約束”を履行しなかったため、連盟はベナルティーとして年内の出場停止処分を通達

ざっとこんな流れだったようだ。


ここで違和感を抱いたのが、申告したのが問題となった竜王戦のタイトル保持者である渡辺竜王だったことだ。


もし不正を働かれれば、タイトルを奪取されかねない。そんな危機感があったのかもしれないが、すでに金属探知機を導入しての携帯の持ち込み禁止など、対策はとられていたようだから、それはたぶん杞憂というものだ。

ぎゃくに三浦九段の挑戦をいやがって、今回の挙に出たと邪推されかねないタイミングだった

たぶん棋界の頂点にある棋士として将棋界の将来を憂えてのことだったのだろうが、今回の対処の仕方がベストであったかどうかは疑わしい。


三浦九段の不正使用疑惑は夏頃からあったというし、それがなぜこのタイミングだったのかという疑問は、容易に氷解するものではない。


渡辺竜王はその一週間前、三浦九段と順位戦を戦って負けていた。この対局でも三浦九段が不正を働いたということなのだろうが、それ以前の順位戦の対局では、夏以降だけみれば佐藤康光九段、稲葉陽八段に連敗している。


「不正をしていること」と「不正によって勝っている」というのは同じではないが、動機から考えれば辻褄があわない。


このような状況をみても、やはりグレーと判断するしかないし、羽生三冠が主張しているように「疑わしきは罰せず」が常道だろう。


渡辺竜王は文春の記事のなかで、このタイミングで申告した理由をつぎのように語っている。


「竜王戦が始まってから疑惑が公になれば、シリーズは中断される可能性が高いと考えました。それだけでなく、タイトル戦を開催する各新聞社が“不正”を理由にスポンサー料の引き下げや、タイトル戦の中止を決めたら連盟自体の存続さえも危うくなると思ったのです。そんななかで最悪のシナリオは『疑惑を知りながら隠していたという事が発覚する事だ』と判断しました」


しかし、騒動となったら「シリーズが中断されるかもしれない」という心配はさておき、「タイトル料が引き下げられる可能性がある」とまで竜王が踏み込んで語っているところで、おやっと
首を傾げてしまった。

そのような裁量権は、もっぱら主宰者側にあるわけで、連盟側の人間が強く意識するようなことではないと思うのだ。そこにどうしても「引き下げられかねませんよ」という讀賣新聞側の悪魔のささやきが聞えてしまうのだ。

讀賣新聞といえば、ことし讀賣ジャイアンツとその周辺で賭博事件問題が炎上した。シーズンの開幕前後は、世間はこの話題でもちきりとなった。そして今回は、主催する竜王戦を舞台とした不正事件の騒動だ。


かつては身内の騒動とかスキャンダルを見事にもみ消し封印してきた天下の讀賣が、あまりに脇が甘いというか、危機管理能力がなさ過ぎるではないか。

あえてこれらを“事件化”しているとしか思えないのだ。

偶然といってしまえばそれまでだが、どうも讀賣新聞がみずからの尾をくらうように、身内の不祥事から騒動を演出しているような気がしてならないのだ。


それとも連盟内に騒動を持ち込み派閥争いに乗じて利権でも漁ろうとしているのか……

たぶん今回の不祥事で迷惑をかけられたことになる連盟には“恩を売った”ことになるだろう。発言力だって増すはずだ。


タイトル最高峰の権威を金で買った讀賣だ。

それくらいのマジックは見せてくれてもおかしくはない。


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