2016年10月26日水曜日

黒田博樹〜引退で大いなるギフトを〜




日本シリーズ第3戦(ファイターズ1勝 カープ2勝) 札幌ドーム  広 島 02010  3
 北海道 10201x4
  勝 バース1勝
  負 大瀬良1敗
  本塁打 エルドレッド3号

もしかすると「黒田博樹最後のマウンド」になるかもしれない登板は、思わぬアクシデントによって、あっけないかたちで終幕となってしまった。

その経緯を簡単におさらいしておくと…

6回裏1アウト。
打席には3番の大谷翔平が入っていた。

黒田は3球目に134キロのフォークで大谷をレフトへのフライに打ち取った。
これで2アウト。

そのときフィニッシュの反動でバッターボックス寄りにからだが流れた黒田が、顔をしかめながらマウンドにもどった。
そして何かをつぶやくと、そのまま足を引きずりながらみずからマウンドを降りた。

一連の様子から、事態が尋常のことではないことはすぐにわかった。

「治療のため」であったから、なんらかの処置をした後に、彼はふたたびマウンドにもどってきた。
そして何球かを試投した結果、じゅうぶんなパフォーマンスを発揮できないことを悟ってふたたびマウンドを降り、そのまま投手交代となった。

試合後の本人の談話によれば、「ふくらはぎとハムストリングに張りが出た。(あとひとりという気持ちはあったが)つぎが一発のある中田でもあり、畝コーチと話して降板を決めた」のだという。

5回2/3を投げて1失点。投球数は85球だった。

                     ✽

そのときの様子は、ほとんどのプロ野球ファンが目撃したか、二ユース映像などで目にしたことだろう。
しかし、この状況に直面し目撃したファンの受け止め方は、それぞれだったはずだ。

感慨が複雑に交錯するうえに、このまま本当に彼が現役を引退してしまうのか、それともつぎの登板のチャンスがあるのかまだわからないのだから、なおさらのことだ。

個人的には、きのうの登板が黒田の最後のマウンドになるのではないかという、漠とした予感がある。
というのも、つぎに黒田投手が「投げられる」ためには、クリアしなければならない条件がいくつかあるように思うからだ。

まず、つぎに先発があるとすれば「第7戦までもつれこめば」という条件がクリアできなければならない。

その可能性は、きのうのファイターズの1勝で低くはなくなったが、決して高いとはいえない。
しかも、そのとき黒田投手がマウンドにあがれる状態にもどっているか、というハードルがさらにある。
痛めたのがハムストリングということなので、素人判断だが、これはかなり厳しいと思わざるをえない。

本人も「ひとりの打者でも」という思いはあるようだし、中継ぎ登板も考えられないことはない。
勝つにしても負けるにしても、大量点差になれば可能性はあるかもしれない。
つまり日本シリーズでの「引退の顔見せ登板」ということだ。

それは個人的にはあってもいいと思うし、期待しないでもない。
しかし、そんなゲーム展開になる試合があるかどうか。
さらに緒方監督のここまでの戦いぶりを見てくれば、それはレアケースと思っておいたほうがよさそうだ。

だから個人的には、きのうが黒田投手の最後のマウンドになってしまったと了解している。

黒田投手が、いつ最後のマウンドになってもいいようにという思いで投げていたように、ファンもいつ彼が引退してしまってもいいつもりで見守るべきだと覚悟していたからだ。

もし万一、つぎの登板の機会があるとすれば、それはもう「めっけもの」として喝采したいし、そのときはきっと目頭を熱くして彼の最期を見送ることになるだろう。

黒田投手のきのうの降板は、球数超えの交代でも、ノックアウトされてのことでもなかった。
「これ以上もう投げられない」という、ぎりぎりのところで自身が決断してのことだった。

「これが最後の1球になってもいい」
日頃からそんな覚悟で全力投球してきた彼にとって、あの85球目はまさにその最後の1球だった。

大谷翔平という希代の打者に、おのれの全身全霊をかけて投げた一投。
それが命取りとなったのだ。「本望」なのではないだろうか。

「まだやれる」
そんな声が、ファンのあいだにはいまだにくすぶっていた。
満身創痍とはいいながら、まだ投げられるんじゃないかと。

きのうの降板は、そんなファンへの最後通牒ともなった。

黒田投手は、刀折れ矢尽きて倒れたのだ。
見事に最後の1球を投げ終えて、彼はマウンドを去った。

その事実が、「黒田博樹の引退」という悲しい現実と引き換えに得た「慰め」でもある。
さらにその1球は、これから日本の球界を、そしてメジャーの野球をも牽引していこうかという大谷投手へのエールの1球ともなったのだから。

黒田は大谷と対戦した3打席で、ツーシームはもちろん、カットボール、フォークボールと、すべての球種を「見せた」という。
そして大谷は、その「軌道や投球の間合い」をバッターボックスで学んでいた。

黒田投手は最後の試合で、球界の宝である大谷投手へと遺産の贈与をしていた。
また、そのことで将来の野球ファンへも大いなるギフトをしたことになる。

ありがとう黒田。
そしてお疲れさま。

野球の愉しさ面白さばかりでなく、人間の素晴らしさを教えてくれた君に……

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