黒田博樹投手の引退表明が引き起こした騒動の波紋は広がるばかりだ。
メディアは『黒田引退』の情報の洪水。ネットをザッピングすれば賞讃と感動、そして羨望のコメントであふれかえっている。
それにしても、ここまで見事な引き際を見せてくれたプロ野球選手は珍しい。
ファンの反応も、かれへの感謝とともに「かっこいい」が大半をしめているようだ。
もちろんメジャーへの門戸を切り開いてくれた先駆者でもある野茂英雄投手のように、可能性がある限り球団からのオファーを待ち、何度も何度もマイナーからチャレンジし、最後は燃え尽きたような野球人生も悪くはない。
たぶん彼の生き様に惹かれ勇気をもらったファンは、数えきれないほどいたことだろう。
しかし、おのれの人生に重ねて見たとき、できうれば黒田投手のようなスマートな引き際を願うのが人情というものだ。
今回の黒田博樹の引退表明に、多くのファンが「かっこよさ」を見ているのは自然なことだろう。
かのスーパースター長嶋茂雄にしてからが、いやいやカープのレジェンドである山本浩二、衣笠祥雄の両名しにしたって、本人は納得してのことだったとはいえ、ボロボロになったおのれの肉体にチームの敗北をも背負うようなかたちで引退することになった。
チームが優勝したシーズンを最後に、きれいなからだのまま、いやもとい、輝かしいイメージのままグラウンドを去れるなんてそうそうあるもんじゃない。
いままさに「引退」とか「転身」とかを考えている向きには、『黒田博樹のかっこいい身の振り方』にシビれ、背中を押されるように新天地へと羽ばたいて行ったり、引退を決断したり、うっかりもふくめてかなり出てきそうな気配だ。
そういうおれは、とふっと振り返れば、もともと立場もポジションも持たないフリーランス。引く身も去る場もなく、すっかりタイミングを失してしまった老惨が、所在なく大あくびしながら鼻くそをほじっているようなていたらく。
いつまでもできると踏んだ物書き家業。ひっくりかえせば、いつまでもけじめつけ難いことの同義であったかと、しみじみと感慨にふけるばかり。
「黒田よ、君も罪なことをしてくれたものだ」と、賞讃に苦言をまぜて贈りたい心境ではある。
という冗談はさておき、ファンへの最後のお別れということで、日本シリーズ第2戦の地元ズムスタでの登板が濃厚となった。
引退表明は、そのことの告知でもあった。
「黒田よ、なんど俺を泣かせればいいんだ」
涙腺のゆるいファンにも、黒田は決断のたびにさんざん罪なことをしてきた。
だがそれも、最後の最後になる日がやってくる。
どんなかたちであれ、彼がマウンドを去るそのとき、こんどはわれわれの方が“黒田博樹”を引退しなくてはならない。
ずっと黒田博樹に背負わせて来た覚悟というものを、こんどはファンが問われているのだ。
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