黒田博樹投手が今期限りでの引退を表明した。
ファンも関係者もうすうす感じていたことだろうが、とうとうそのときがやってきた。
前の投稿に書いた『情熱大陸』の番組の会食シーンのなかで「新井はボロボロになるまでやらんといかんやろ」と、屈託なく笑いながらいじっていたシーンを観たとき、ああもう決心したんだな、というのははっきりと伝わってきた。
もうちょっとやってほしいという感情論ではなく、冷徹に考えてみれば今シーズンを逃して、彼がスマートにやめられるチャンスはないだろう。
ぎりぎりマウンドに上がれる限界で投げて来て、今シーズンにようやく望みに望んだ「優勝」という花道が用意された。
ファンに見送られながらこの花道を歩んでいかないほうがおかしい。
これまで人一倍優勝をのぞみながら、ついにメジャーでもそれを経験できなかった。
その彼がもっとも愛するチーム、カープにもどってペナントを手にすることができた。
いや、ファンに優勝という素晴らしいプレゼントをもたらしてくれた。
もうこれ以上、彼にがんばってくれとはだれもいえないだろ。
フリーエージェントの権利を取得した2006年オフに、ファンからの強い慰留の声を意気に感じて彼はカープに残留した。
そして翌年には、「メジャーへの挑戦もしかたがない」という物わかりのいいファンと、強く慰留はしなかった球団の思惑にじりじり追い出されるようにカープを去り、メジャーリーグに挑戦することになった。
そしてメジャーで毎年のようにオフには引退を考えるようになったとき、カープから例年とはちがう“強い要請”があってカープに復帰することになった。
そこまでの彼の選択には、いつも他者への思い、気配りががあった。
いつも優先するのはファンのため、カープのためだった。
その彼が、今回はじめて“自分のわがまま”を貫いた。
「引退は自分で決めた」という。
「よかった」
素直にそう思う。
そして「お疲れさま。そして、ありがとう」と。
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それにしても、彼は選択のたびに遠回りしていたように見えた。
「不器用な人生」
そんな言葉が似合いそうな野球人生だった。
しかし、いまあらためて彼の足跡を概観すれば、そこには大団円の大輪の花が咲いている。
その軌跡は見事としかいいようがない。
メジャーからの復帰の報を耳にしたとき、いてもたってもいられず彼が生まれ育った大阪の住之江に向かっていた。
そして彼の足跡を訪ね歩いていた至福の時間に、ふと立ち寄った喫茶店の窓辺で目にした一輪の花…。
あの可憐な花が、いつの間にか大輪のひまわりになっていた。
そんなイメージが、いま明瞭な映像となって目の前に広がっている。
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