あれよあれよという間にペナントレースを制し、クライマックスシリーズも圧倒的な強さでベイスターズを退けたカープの勢いに引っ張られるように企画され、駆け足で制作したのが感じられた内容だったものの、その『脱力した情熱』も悪くなかった。
リーグ優勝を決めた直後からカメラを回しはじめ、まだクライマックスシリーズ真っ最中に撮影していたわけで、取材できたのは黒田博樹と新井貴浩の“主役”と、“神っている”鈴木誠也の3人だけ。その上制作時間も限られていたのだから、流した番組にならざるをえなかったのは仕方がない。
それでも物足りなさは感じなかったし、グラウンドとはちがうなごやかな表情の選手たちを好感を持って観ることができた。
もちろんファンとしてのひいき目もあるのだろうが、タイムリーな企画を実現してくれたスタッフの情熱と、ピックアップされた選手たちの人間性を引き出した手だれには感心するばかりだった。
優勝を手にできた興奮と、「いまだに実感できない」という黒田の不思議な戸惑い…。
そして日本シリーズに向けての意気込みと緊張感とが、ライブの皮膚感覚で伝わってきたのはうれしかった。
さらにいえば、優勝決定へのカウントダウンからクライマックスシリーズへと、ずっとつづいてきたスタンドの喧噪から離れて、ようやく「おだやかな空間のカープたち」に触れることができたのも収穫だった。
石原捕手、小窪キャプテンが加わってのお約束の『会食シーン』とか、鈴木誠也選手を町中に引っぱりだしたり寮に侵入してのスナップ撮影とか、“お茶を濁した”ような構成だったものの、その苦肉の策が却って新鮮なカットとなっていて、興味深い仕上がりになっていた。
それにしても、どの選手のどのシーンをとってもチームのアットホームでフレンドリーな雰囲気ばかりが伝わって来た。
「このカープの好感度は、いったいどこから来るのだろうか…?」
あらためてそんなことを考えさせられた。
意識機にチームを引っ張っている黒田と新井の両ベテランの存在が大きいことは、いうまでもない。
と同時に、「あの選手の不在もあるのではないか…」そんなことが頭をよぎって、つい苦笑してしまった。
「もし、いまカープのベンチに彼がいたらどうだっただろうか?」
彼がひとり求道者のようにバットを見つめたり、首をひねっているベンチには、なんともいえない緊張感がみなぎっていたはずだ。
団結力をチーム力に変えて快進撃してきたような今年のカープ。
その団結力が強まらなかったとしたら、優勝はなかったかもしれない…
もちろん、そのことで彼を非難するつもりはない。
チームの優勝とはまたちがう、彼の天才をわれわれは見ることができたわけだし、そのときのカープには別の魅力があったのだから。
つい先きごろノーベル文学賞が決まったボブ・ディランの歌にもあるように「時代は変わる」。
そして、めぐりめぐっている。
黒田博樹の引退が現実のものとなる日は、もう間近に迫っている。
最悪、このシーズン限りでという可能性もなくはない。
いずれ新井貴浩も、それにつづくことだろう。
彼らが不在となる日が、遠からずやってくる。
「そのとき、はたしてカープがどんなチームになっているか?」
それはまた、そのときの楽しみでもある。
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