5月14日の試合
讀賣 100000000-1
広島 00100223X-8
広島 00100223X-8
勝 九里3勝3敗 負 田口3勝1敗
本塁打 鈴木8号
先発の九里がジャイアンツの先頭バッター橋本に四球を与えてしまったことろで、「またかよ」の失望の声がもれたにちがいない。そこから案の定、あっさり1失点してしまったのだから、失望は落胆に変わったことだろう。
なんといっても、この試合まで4試合結果を出せなかった九里。投げても投げても、失態をくりかえすばかりだった。
その“崩壊パターン”が四球からの失点だったのだから、試合開始早々のこの失点は印象が悪すぎた。
しかし中高の“ワル時代”から立ち直ったという九里は、この試合でも以後は立ち直って、そこからスコアボードに0を並べていった。
集中力を切らすことなく投げきった6回102球。四球は4を数えたが、ヒットは失点した初回以降は1本のみの被安打3。まさに粘投というにふさわしい内容だった。
6回にセカンド菊池のエラーから招いたピンチを、低めに集めて3アウトのすべてを内野ゴロで仕留めたように、ジャイアンツ打線を終始丁寧に料理していたのが印象的だった。
✱
その6回表のピンチをしのいだところで、カープがジャイアンツを突き離した。
「ピンチの後にはチャンス」
野球の教科書に書いてある通りにきた流れ。
それをモノにして2得点したカープが勝利を引き寄せた。
得点は1対1の同点の場面。
菊池が三振に倒れて1アウトとなったが、つづく丸がこの日2本目のセンター前ヒット。
ここで4番の鈴木が、ジャイアンツ先発の田口が投げた5球目のスライダーをジャストミートしてレフトスタンドへ。
これが決勝点となってカープは快勝した。
この2点で「30」となって、鈴木は打点でリーグトップに。
カープの4番どころか、リーグの4番へと名乗りを挙げた。
五月晴れの陽光を浴びて、はしゃくでもなく悠然とダイヤモンドをまわる鈴木選手の姿を追いながら、人間が成長する早さと大きさとに驚嘆するばかりだった。
思えばはじめての“鈴木体験”は、彼が入団した2013シーズンの春のキャンプのことだった。
カープでストッパーとして一時代を築いた津田恒美投手が生まれ変わって、ふたたびマウンドにあがるという物語り「天国から来たストッパー!」を書くための取材で、あらためてキャンプの雰囲気をつかむために天福球場を訪れたときのことだった。
もちろん彼を意識していたわけではなく、強いていえばドラ1の高橋大樹選手がどんな選手なのかにすこし興味があった程度だった。
“お目当て”の高橋選手は結局どこにいるのかわからず、見ることはかなわなかったが、鈴木選手は意外なかたちで認識させられることになった。
たぶんキャンプ初日のことだったと思う。
内野の守備練習を見ていたときのことだ。
見慣れた体形、親しんだ動きで守備練習をしているユニフォームにまじって、ひとり見たことのない選手が目を引いた。
俊敏な動きでボールを捉え、跳ねるように送球をしている選手。
からだにはキレがあって、スピード感にあふれていた。
「いったい誰や?」
そう思って背番号を確認し、メンバー表で付き合わせてみて知ったのが「鈴木誠也」だった。
「この選手は、あがってくる」
そう確信した瞬間だった。
何度かキャンプは見学しているが、こんな感触を持った選手はそれほどはいない。
自分の中では新井貴浩選手くらいだろうか。
(鈴木選手のようなセンスではなく、そのど根性を目にしてのことだったが)
その新井選手と彼とが、「4番」という運命の交差点で行き違いになったのも不思議なめぐりあわせといえばいえそうだ。
それにしても、これほどのスピードで、ここまでの選手になるとは思いもしなかった。
あのとき目にした天賦の才能に、彼の日々の精進と努力があいまっての成果だろうが、感慨は深い。
とはいえ、まだまだ成長過程、発展途上。
はたしてどこまでの選手になるのか、興味がそそられるばかりだ。
この試合の私的MVPはヒロインどおりに鈴木誠也と九里亜蓮。
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