5月16日の試合
横浜 000010000-1
広島 00005005X-10
広島 00005005X-10
勝 野村3勝1敗 負 濱口2勝3敗
5回に試合が動き、勝負が決まったこの試合。
「0」を両翼に連ねて5回に「1」と「5」が縦に並んだスコアボードを将棋盤に見立てると、5五の中央地点で戦いがはじまったことになる。
序盤は先手のベイスターズ、後手のカープともに「0」を並べながら駒組をしていたが、5回になってベイスターズが先に仕掛けて「1」点をあげた。
これに対してカープが「5」点で応じ、いわゆるるこれが勝負手となってカープは“勝勢”になった。
三塁スタメンのペーニャの失着から、やらずもがなの1点を失ったカープ先発の野村だったが、
「(この回)最少失点で乗り切って、味方が逆転してくれた」結果の勝利だった。
この勝負。
将棋盤に見立てたスコアボードを逆から見ると、またちがった世界が見えてくる。
ベイスターズ先発の浜口投手にすれば、
「せっかく1点を先制してもらったのに、逆転されてしまった」結果の敗戦ということになる。
初回の3アウトから四球ひとつをはさんで5連続三振。4回までノーヒットとカープ打線をパーフェクトに抑えていた浜口投手が、この5回に突然に四球を乱発して5失点の乱調におちいってしまった。
これも逆側から見ると、勝利投手の権利を得た途端に「勝ちを焦って」四球を連発して自滅してしまったという浜口投手の心理が、手に取るようにわかるだろう。
5月2日のジャイアンツ戦に破れて以降、1か月半も勝ち星から遠ざかっている焦り。
そんな心理状態が、この棋譜というかスコアから見てとることができる。
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将棋盤を相手側から見ることを“ひふみんアイ”という。
長い歴史の中でも、「礼節」を重んじる棋界では“お行儀が悪い”ということで、相手側にまわって将棋盤を眺めるということはタブーだった。
ところが、ある棋戦で1時間以上も読みに没頭した加藤一二三元名人が、ついこれをしてしまった。
するとそれまでまったく思いつかなかった絶妙手が見えてこの将棋に勝利した。
これに味をしめた加藤九段がルーティンのようにするようになってから、この“ひふみんアイ”は棋界でも市民権を得るようになった。
そのとき浮かんだ手が、この試合でも勝負の回となった「5五」への歩だったらしい。
また棋戦の中継のカメラなどでは、当たり前のようにこれが使われるようになってもいる。
たしかに、これをやると景色はまったくちがって見える。
相手の“読み”までが見えてくるのだ。
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話をこの試合にもどそう。
カープが1点失った5回は、ベイスターズにとっては好手となったが、それが浜口投手からすれば勝利へのプレッシャーにもなった悪手になってしまった。
つまりカープにとってみれば、ミスからの失点でポイントを奪われたが、それが逆に好手を生むきっかけになったのだ。
この試合の地上波中継で解説していた前田智徳氏がベイスターズの筒香選手の打席にまわるたびに、「注目して見てみたいですね」と視聴者にうながしていた。
不調の筒香選手が心配だ、と。
「相手チームの主砲が不調では見ていてもつまらないじゃないですか」とも。
これなども相手の側に立ってみる“ひふみんアイ”といえるだろう。
あえていえば“とものりアイ”か。
同じバッターとして、それもあるゾーンを超えたレベルの者同士として筒香選手の不振を見かねてのことだったのだろうが、ファンにもその視線はあってしかるべきだろう。
相手チームの側からの視線も意識すれば、複眼的にゲームを愉しむこともできる。
逆にこの視点を忘れては、せっかくのゲームの醍醐味、面白さも半減してしまうだろう。
であってみれば、ズムスタのスタンドを真っ赤に染めて、のべつ幕なし我が物顔に鳴りものをかき鳴らし、大声を張り上げつづけている応援ぶりはどうなのかと、あらためて思わざるを得ない。
「みんなひとつになって」
といえば聞こえはいいが、中には「静かに球音を愉しみたい」ファンもいることだろう。
そのことに思いをいたせば、もう少し工夫があってもいいように思うのだ。
「ここはみなさん、投げて、打って、捕っての球音を愉しみましょう」
そんな時間をズムスタで演出できたら、きっと球界の応援史に残る伝説になるはずだが…。
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野村投手は7回1失点ながら自責点は0。
防御率をあげて1.91とし、1位のジャイアンツ菅野投手に肉薄する2位になった。
チームは3連勝したが、他の将棋盤を見てみればタイガースもドラゴンズに大勝していてゲーム差は縮まらず1.5のまま。
“とものりアイ”ではないが、巨視的に見れば相手が強いほどペナントレースは面白い。
この試合の私的MVPは野村投手だ。
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