2017年4月30日日曜日

書き加えられるカープ4番の系図

4月29日の試合
広島 200100120-6
横浜 0000010-1

勝 岡田3勝1敗 負 今永1勝2敗 

本塁打 菊池2号 鈴木3号・4号 新井4号 


前日と攻守入れ替わってカープの大勝、快勝だった。

初回に菊池の2ランホームラン。
そして4回には鈴木のソロ。
7回には新井のバックスクリーン直撃のドでかいホームランが出て、仕掛けのいい花火を見てボルテージがあがったところに、鈴木選手にまたもや2ランが飛び出して、真っ赤なスタンドの興奮もレッドゾーンを振り切れてしまった。

へたするとあのとき失神してしまったファンもいたのではないか。
そんな心配をしてしまうほどのカープの攻撃ぶりだった。

ホームランが計4本の“グランドスラム”。前回完封負けを喫した今永投手を一蹴してしまった。

しかもスタメンに新井、鈴木が並ぶオーダーで鈴木がはじめて4番に座った試合。
そこでのこの快挙。

「恐れ入りました」
というしかない。

いままでは代役でしかなかった鈴木選手の4番。
ところがこの日、指揮官は正式に4番打者決定最終レースのスタートの号砲を鳴らした。

そこで気持ちが空回りすることなく、重圧につぶされることもなく、2本のホームランで結果を出した鈴木選手。
まだまだ負けんぞと、破格の飛距離で応じた新井選手。

これほど見応えのある1幕の劇がグラウンドという舞台で、バットとボールという小道具を使って演出できることに、あらためて野球の素晴らしさを感じざるをえない。

そして、それを演じて見せた、ふたの名優にはスタンディングオベーションだ。

                    ✱

カープ球団が創設されてから、幾多の打者が開幕スタメンで4番のスコアボードを飾ってきた。

はじめて4番らしい4番として歓呼の声で迎えられたのは小鶴誠だろう。
市民からの寄付を集めた樽募金を資金に、松竹ロビンスから獲得したスラッガーだった。

それからは藤井弘、大和田明、興津達雄が入れ替わる群雄割拠時代があった。そしてそこに地元出身の野球エリートだった山本一義が割って、ダンゴ状態がしばらくつづいた。

そして1971年に根本陸夫監督が若き長距離砲に成長しつつあった衣笠祥雄を大抜擢。自前で育てた本格的な主砲の誕生だった。

やがて衣笠・山本の両輪時代となって、初優勝の1975年のシーズン途中に山本浩二が4番に入るようになった。
そして翌年、開幕スタメンで山本が4番に名を連ねると、それから引退する1986年まで、カープの4番は長く彼の指定席だった。
この時期はまた、カープの黄金時代と重なる。

しかし、山本浩二がチームを去ったあと、カープの4番は日替わり年替りになった。

外国人で埋められたかと思えば、小早川毅彦、長内孝が頭角をあらわしたこともあった。
しかし誰も長続きはせず、ときには前田智徳がつとめたこともあった。

ようやく主砲らしい4番が復活したのは1995年からの江藤智だった。
彼があらわれたことで、しばらくカープの4番は安泰かと思われた。
しかし1999年にFAで手放したカープは、また真の4番不在のチームとなった。

江藤のあとの4番を埋めたのが金本知憲だった。
さいわいにも、彼はすぐに穴埋め4番から真の4番へと成長した。

これでまたしばらくはカープの4番は安泰かと思われたが、彼も2002年を最後にFAで移籍。
相次いでの主砲の喪失は、カープの弱体化に拍車をかけた。

このとき“貧乏くじ”を引かされて4番に起用されたのが新井貴浩だった。
時期尚早だったのか、プレッシャーにつぶされたのか、彼は結果を出せずに4番落第となり、しばらくは外国人選手がとっかけひっかえ状態。
カープが『補強』ではなく『補填』をしてお茶を濁していた時代だ。

ようやく新井が2007年に開幕スタメン4番に復帰したものの、そのオフにはFAでタイガースに移籍しまった。
ここは栗原がうまく引き継いでくれたが、2012年に彼が故障で離脱すると、またカープは4番不在に。

そしてご存知のように2015年に復帰した新井が地力ではいあがって、今年の開幕4番をつかんだ。
そして、いま鈴木がそれにとってかわろうとしている。

江藤がFAで去ってから、カープの4番は常に「与えられるもの」だった。あるいは消去法での起用だった。

それが今回は、ひさしぶりに競い合っての当確争い。同じフィールドに立ちながらソフトランディングして新旧交代を果たそうとしている。

もっとも望ましいかたちでの4番争いといえるだろう。

この4番の座を賭けての主砲レース。
ペナントレースとはまた別な興趣を、カープファンはしばらく愉しめそうだ。

そして、新井選手が精根尽き果てて見事に破れたそのときには、あらためて慰労と感謝とを込めて大きな拍手を贈りたい。

                     ✱  

そえそう忘れてました、先発岡田投手。
こちらも脱帽もの投球だった。

惜しくも完封、完投は逃したものの8回を被安打6の1失点。四球はたったひとつという安定したピッチングでチームトップの3勝目をあげた。

ゆったりしたフォームから投じられるスピードボールの威力とコントロールされた配球。
ほれぼれと見ながら、つい前日の加藤投手のことを思って“膝ポン”してしまった。

「ここにいいお手本があるじゃないか」と。

岡田投手も今季初登板の試合では、苦い経験をした。
そこからすぐに気持ちも修正した。

抑えようと力むんじゃなく、力まなくても抑えられる。

そのことを岡田投手が身をもって示してくれていた。


                      ✱


勝手に恒例にした『この試合の私的MVP』は鈴木誠也選手だ。




2017年4月29日土曜日

“加藤ルール”は改正の時期に?

4月28日の試合
広島 010002000-3
横浜 202302X-9

勝 ウィラード1勝 負 加藤1勝3敗 本塁打 梶谷5号 丸3号


カープり地力とベイスターズの勢いが拮抗して、スリリングなゲームになるだろう。
戦前の予想は、見事にはずれた。

ベイスターズの一方的な勝ち。圧倒的な勝利に終わった。

このところ、このテの予想や期待はハズレっぱなし。
まるでカープ先発加藤投手の投球のように、なかなかコーナにおさまってくれない。

いうまでもなく試合を壊したのは加藤投手だった。

初回の先制点は1アウトから四球を出してから喫した2ランホームランによるもの。
4回の2点の追加点は2アウトからヒットを挟んで出したふたつの四球で満塁にしてしまってからビッチャーのウィーランドに打たれたタイムリーヒットによるもの。

見事なまでに四球を得点につなげてしまった。
ピッチャーに打たれたタイムリーなどは、四球がいかにまずい流れを生んでしまうかの好例だろう。

これで加藤投手は3連敗。

荒れ球でもなんとか抑える“加藤ルール”は危なっかしくなってきたが、球界の常識ともいえる「四球のあとは得点につながりやすい」という定石は盤石だ。
そのことをこの日の加藤投手は証明してしまった。

ただ加藤投手を擁護すれば、ベイスターズ打線の迫力に「たじろいだ」という側面
もあっただろう。
ルーキーがマウンドで実感するプロの脅威というやつだ。

大学時代までは余裕でいけてた“加藤ルール”が、プロでは通用しない。
球威という『一芸』だけではプロの世界を生き残れない。
そのことをしみじみ痛感しているはずだ。

もちろん彼だってバカではない。頭ではわかってはいるのだろう。
しかし、それを一朝一夕に修正することは難しい。

ことに「全球全力」を信条としてきた彼には、力を抜くという経験すらないだろう。
「全力」と「力む」の感覚的なちがいを体感した経験はないはずだ。

前の試合で好投して2年ぶりに先発勝利をあげた大瀬良投手。
彼も力みを悪いクセと自覚しながら、なかなか修正できなかった。

いずれ加藤投手も試行錯誤しながら、“加藤ルール”から脱却するのは時間の問題だろう。
この予想と期待だけは、はずれてほしくないものだ。

ちょうどこの日、大阪のドーム球場で行われたバファローズとホークスとの試合では、メジャーから6年ぶりにホークスに復帰した川崎が初先発出場して攻守にはつらつとしたプレイでファンを歓ばせた。

「Have fun!(愉しんでいこうぜ!)」

試合前のミーティングで彼はナインにこう声をかけたという。
この言葉をいまの加藤投手にもかけてやりたい、そう思う。

                   ❇ 

いうまでもなく試合を壊してしまったのは加藤投手だ。
こどもがおもちゃを散らかしたような投球をしてしまったのだが、その後片付けをしなければならない親としての指揮官の対応には疑問が残った。

ウィラード投手にタイムリーを喫した後、トップバッターの桑原にも四球を与えたところで、左腕の飯田を指名し、ここは彼が石川を内野ゴロに抑えてしのいだ。

この4回を終わった時点で1対4。まだまだ勝敗の行方はまったくわからなかった。

ところが、つぎの回も回跨ぎで飯田投手の続投。

ここは梶谷、筒香と左がつづくのでわからなくはないが、1アウト二塁となって右のロペスを迎えても続投させてタイムリーを打たれたばかりか、次打者のエリアンが右打席に入ってもてもそのまま投げさせて、またまたタイムリーの洗礼。
ここで左の倉本にもヒットされ、つぎの左打者の戸柱に致命的な2点タイムリーを喫してしまった。

左打者用のワンポイントに出したはずが回跨ぎ。しかもピンチで右打者を迎えても替えず、左にも通用しないことがわかってもマウンドから降ろすことはなかった。

それで、やらずもがなの3点を献上。これでゲームはほぼ決まってしまった。

序盤で加藤投手が壊してしまったゲームだったが、まだ勝負はわからなかった。
たらればだが、あの局面をうまくしのいでいれば選手の覇気も保っただろうし、ゲームの結果もわからなかった。

散らかしたのは加藤投手だったが、決定的にゲームを壊してしまったのは指揮官だったといえないことはない。

ここまで個人的には緒方監督の用兵にも采配にもそれほど不満はなかったので、すこし残念な気がしてならない。

                    ❇

勢いにのっているときは、ほっておいても勝てる。
いらぬ小細工を弄する必要はない。

ピッチャーが崩れたときの継投。打てないときの采配に指揮官の真価が問われるのはいうまでもない。

緒方監督は昨シーズン、カープを優勝に導いてくれたが、圧倒的なチーム力と怒濤のような勢いで他チームに大差をつけてゴールインしてしまった。
指揮官としての真価を発揮する間もなく、また、問われることもなく結果をだしてしまったといってもいい。

ここまで序盤を戦ってみて、どうやらダンゴ状態で推移しそうな今年のペナントレース。前年覇者の指揮官として、これから真価が問われることになりそうだ。







2017年4月28日金曜日

『失敗は成功の糧』

4月27日の試合
讀賣 000000000-0
広島 000100X-1

勝 大瀬良1勝 S 今村 1敗4セーブ 負 宮国2


カープが3投手の継投でジャイアンツを完封。
3連戦初戦に菅野投手に完封負けを喫したリベンジを果たした。

大瀬良投手が2年ぶりの先発勝利。それも運でもツキでもなく力でもぎ取った正真正銘の勝利だ。

この間たしか中継ぎで4、5勝はしているものの、同じ勝利でも実感する重さ、感じる喜びの大きさは雲泥の差だろう。

1対0で凌ぎを削りながらの7回無失点投球。

正直いって、こんな勝ち方を彼がするとは思っていなかった。
緊迫した展開では彼のメンタルがもたない。
ここ最近の投球には、それがはっきりと現れていたからだ。

「マウンドに上がるのが怖いんじゃないか」

そんな風に見えてもいた。

どんな投手だってマウンドに上がるまでは緊張はするだろう。
開幕戦のマウンドなどは「逃げたくなるほど」の重圧がかかるものだという。

それでも投げはじめて1アウトを取れば、たいがいの投手は落ち着いてくるものだ。

ところが先発を外され中継ぎで投げていた頃の大瀬良投手は、ずっと1アウトも取っていないような心理状態で投げていたように見えた。

「2アウトを取っても、手痛い失投で大逆転された」

そんなトラウマに、ずっと気持ちが支配されていたのだろう。
逃げたくなるような緊張感を通り越して、上がりたくない恐怖心だ。

同じ背番号を背負っていた津田恒美。
後年は“炎のストッパー”と形容されるほど、闘志むき出しにバッターに向かっていた彼も、マウンドを怖がっていた時期があった。

気持ちは優しいもののマウンド度胸だけはあるように見えた津田だったが、やはり大事な場面で打たれつづけたトラウマに圧し潰されたのだった。

その彼が燃えるような闘志をマウンドで発揮しだしたのには、もちろんあるきっかけがあった。

巷間伝わっているのは「弱気は最大の敵」。

高校時代に教えられたこの言葉を、あらためて座右の銘として意識してマウンドに上がるようになって、彼は変わったと。

津田が自らの気持ちの弱さを受け入れ、この言葉を血肉としたことから変わったように、大瀬良投手にも意識するしないに関わらず何かのきっかけがあったのだろう。

「いつもは抑えようという気持ちが過ぎて球が上ずるので、気持ちもコントロールした」

「失策がらみで失点するのが悪いところ。自分の責任と思って踏ん張った」

「中継ぎの経験も生かしながら、1球1球ていねいに投げた」

こんなことばからは、しっかりと過去の失敗と向き合ってきた大瀬良投手の姿が偲ばれるる。

「失敗は成功の糧」

そんなことばを今、彼は身を持って実感していることだろう。

「弱気は最大の敵」と書かれたボールをじっと見つめていたという津田恒美。
そうして自らの弱気を認めながら気持ちを奮い立たせた彼と、自らの失敗経験と正面から向き合った大瀬良投手とが重なって見える。

津田と同じようにトラウマに打ち克ってつかんだこの勝利によって、大瀬良投手は大きな自信をつかんだはずだ。

彼がどんな形容が付与される投手になっていくのか、いよいよ楽しみになってきた。

                   ✲

大瀬良投手は「マラソン選手のようになりたい」と、スタミナをつけるための食生活の見直しにも取り組んだという。

そのマラソンに例えれば、少しペースを上げたカープを追走できずにジャイアンツが遅れはじめ、この日甲子園で勝ったタイガースが、いつの間にかジャイアンツと入れ替わって2位になった。

このところ日々のゲーム展開も面白いが、ペナントレースそのものもめまぐるしく変わって、身を乗り出すような興奮を覚えている。

「やっぱりプロ野球はこうじゃなくっちゃ」

その甲子園では次節にハマスタで戦うベイスターズの筒香選手が今季初ホームランを放ち2安打2打点の活躍だった。
ようやく主砲に火がついたことでベイスターズにも勢いがついたことだろう。

明日からの3連戦も、きっと白熱したゲームとなるはずだ。



ちなみに、この試合の私的MVPは言うまでもなく大瀬良大地投手。

2017年4月27日木曜日

新井が初の2試合連続ベンチスタート

4月26日の試合
讀賣 120000201-6
広島 012010X-7

勝 福井1勝 負 大竹寛2勝1敗 本塁打 中井3号


前日の試合の絞まった投手戦から一転して、この試合はハードパンチャー同士の殴り合いのようなゲームだった。

さすがに首位攻防戦。いろいろな“芸風”で戦える両チームだ。

たとえついでにボクシング風に試合をふり返れば、こんな展開だった。

                    ✱

ゴングが鳴ったと同時に巨人が軽くジャブを放ちながら、鯉の顎にフックをヒットさせた。
鯉がふらつく間に、さらにワン・ツーを見舞って、序盤からポイントをかせぐ。

それからはしばらく両者とも攻めあぐねていたが、こんどは鯉が巨人のストレートをかわして放ったカウンターが巨人の顔面を捉える。

しだいに巨人との距離感をつかんだ鯉が、すーっと懐に飛び込んで勝負をかける。
ワンツーの連打が顔面とボディーを捉えた。

巨人の足が止まり、倒れ込むようにコーナーに逃げる。
鯉が素早く足を運んで追いつめるとボディーからチンへ、チンからボティーへと攻め立てた。

そして、フィニッシュブローに繰り出したアッパーカット。
これをなんとかかいくぐってコーナーから逃れた巨人が、鯉が反転する隙をついて得意のフックを顎にねじ込んだ。

するとすかさず鯉も、軽打を返してラッシュする。

巨人は防戦一方になった。
右に左に逃げながら、鯉のパンチをかわす。

鯉はダウンを奪おうと強打を連発するが、なかなかヒットしない。
そのうちの一発をうまくかわした巨人が、カウンターのフックを繰り出す。

これを顔面にヒットされた鯉の足が、一瞬よろめいた。
その隙をとらえて巨人がラッシュをかけようとしたそのとき、非情にもゴング…。

これで試合は終了。
鯉の判定勝ち。

                    ✱

とまあ、こんなところだろうか。

とにかく息をつかせぬ攻防に、目が離せない面白い試合だった。

8対7が1番面白いといわれる野球の展開。その典型的な流れの試合だった。

この試合でボクサー役だったのはいうまでもなく、先発の福井投手だった。
彼はこの日出場選手登録されたばかりで、今季初先発。

2軍でもそれほど調子がよかったわけでもなく、過去のジャイアンツとの相性を買われての抜擢だったようだが、その相性のよさを発揮する間もなく、試合開始早々ボコボコに連打されてダウン寸前まで追い込まれてしまった。

しかし、打たれ強いというのか、福井は倒れなかった。
相性はやはり生きていたというべきだろう。

6回までなんとかもちこたえて、代打降板したところでカープが大反攻して巨人を突き放し、勝利投手となってしまった。

ツキや運も実力のうちというが、相性も実力のうちだ。

これでカープは、この首位攻防戦での首位確保を決めた。

この試合でも新井はベンチスタート。総力戦になったときに「手をつくせる」層の厚さを見せつけての勝利だった。

                    ✱

スタメンから新井をはずしていることについて緒方監督は「(休養ではく)調子が悪い選手はつかわない」との考えからだといっているらしい。
それが真意だとすれば、ちょっと残念だ。

4番打者は調子デンデン、じゃなかった、うんぬんで外すべきではないように思う。
そこは積極的に「鈴木4番移行への布石」という思考であってほしい。

前者と後者とでは、チームの意識付けがまったくちがうように思うのだ。
またファンとしても、それが積極的な選択であってほしいと願う。


この試合の私的MVPは会沢翼選手






2017年4月26日水曜日

一球の失投が明暗を彩った好ゲーム

4月25日の試合
讀賣 000100000-1
広島 0000000-0

勝 菅野3勝 負 野村1勝1敗 本塁打 マギー3号



前の試合で殊勲者となった西川が、さっそく7番サードでスタメンに名前を連ねて純和風のオーダーになった。

スコアボードからカタカナの名前がひとつふたつが消えるたけだが、印象はまったくちがう。
この日も新井がベンチスタートとなったこともあって、これまでとチームの性格がまったくちがって見えるから不思議だ。

「迫力」が「躍動」するイメージに変わったとでもいうのだろうか。

結果的にはカープはジャイアンツ菅野投手に完封されてしまったわけで、このオーダーの軽量級のイメージが、菅野に投げやすさをもたらしたということもあったかもしれない。

                   ❉

ところでこの試合、3回表のジャイアンツの攻撃が終わったところからテレビ観戦した。

ノーアウトで出たランナー(菅野)を送らずに得点できなかったジャイアンツの攻撃を「もったいなかった」ようにアナウンサーが伝えたあと、すぐにカープの石原が菅野からセンター前にヒット。これを野村が送って、いいリズムでカープの攻撃は進んだ。

しかし、多彩な変化球と威力あるストレートをコーナーに投げ分ける菅野の前に田中、菊池がともに倒れてチャンスは実ることはなかった。

そして、つぎの回のジャイアンツの攻撃のときだった。

3番坂本、4番の阿部を3球ずつで仕留めてツーアウトにした野村。

難敵ふたりを簡単に抑えて、あきらかに「乗ってきた」様子が見てとれた。
ギアがひとつ入った。そんな感じだった。

ここで5番のマギー。
初球を投じようと振りかぶったところをカメラが捉えると、心なしか表情も動作も軽快に弾みはじめたように見えた。

しかしその好調を自覚したところに一瞬の慢心が生まれたのだろう(もちろん本人にそんな気はなかったはずだが)、3球目にスーっと投げたカーブが真ん中低めに落ちるところを見事にすくわれてスタンドまで運ばれてしまった。

あのときテレビに大映しになった野村の様子をみて、嫌な予感が脳裏をかすめていた。

「やられなきゃいいが…」と。

その予感が的中してしまった。

このようなケースは、いままで何度も目にしてきた。

かつてカープに在籍してジャイアンツに移籍した左腕のA投手などは、その一例だった。
それがクセにもなっていた。

好調なときは尻上がりに調子を上げて行って、そのたびにギアがあがっていく。
気持ちも乗って行ってマウンドでどんどん躍動するようになってくる。

こうなると腕はフレフレ、球もキレキレになって相手チームは手も足もでなくなってくるのだが、そのうちテンポも早くなり勢いあまってフィニッシュの体が流れだしたら要注意だ。

「打てるもんなら打ってみろ」の気概が逆に隙となって、魅入られたように絶好球を配してしまう。

それを捉えられると、一気に崩れ出して大量失点しまうのが常だった。

あのときの野村投手に、一瞬、同じような慢心の影がかすめたのだ。

                  ❉  

それでも、まだ1点だ。
ゲームはどうなるかわからない。

カープにはその裏、さっそく2アウトながら三塁というチャンスがめぐってきた。
しかし、ここで安部がライトに会心の当たりを放ったが、好捕されて得点はならなかった。

つぎの回、ジャイアンツが得点圏にランナーを進めたものの、野村がきっちり抑えたのを見届けたところで、グラウンドで戦う選手たちには申し訳なかったが、抑えがたい睡魔に襲われて仮眠の床についた。

たぶんゲームはこのまま進んで、さっき取られた1点でゲームは決するだろう。
漠とした、そんな予感があった。

夜中に起き出してネットで結果を確認すると、案の定、あのマギーのソロホームランによる1点でカープは負けていた。

またしても予感は的中してしまった。

野村投手の投球内容は、けっして悪くはなかった。
8回を被安打5、1失点。110球の熱投だ、文句をいわれる筋合いはない。

打線の援護がなかったということだ。
とはっても、あの出来の菅野投手から1点をもぎとるのは至難のワザだっただろう。

まさに、あの1球に野村投手は泣くことになってしまった。

しかし、ここは野村投手のあの1球を責めるよりも、この1敗を嘆くよりも、カープ野村、ジャイアンツ菅野という一級の投手の投げ合いを堪能できたことをファンとして歓ぶべきだろう。

と、そういう自分は、その1試合をほとんど見逃してしまったのだが。









2017年4月24日月曜日

“他力”による連敗脱出

4月23日の試合
広島 030000130-7
東京 0300000-4

勝 一岡1勝 負 石山1敗


野球はタイムを競うゲームではない。

1対1の相手と得点の多寡を争うゲーム。
そのことをあらためて考えさせられた試合だった。

カープが5連敗を免れたのは、自力によって打開したというよりも、相手チームのスワローズのまずい試合運びによるものが大きかった。
はっきりいえば、スワローズが勝手にズッコケてくれたのだ。

連敗の泥沼からなんとか脱出するにはいくつかのケースがあるだろうが、この試合のように「他力で勝つ」という展開などは一例だろう。
まあそれも実力といえば実力なのだが。

                    *

そのカープ連敗脱出劇の主役を買って出てくれたのは、スワローズ先発のオーレンドルフだった。

2回表のカープの攻撃。
オーレンドルフは2アウトを簡単に取ってから、あろうことか、8番の会沢、つづけてピッチャーの九里にまで四球を与える一人芝居だ。

ここで前回にヒットを打って気をよくしている田中。
2ボール2ストライクから真ん中高めに甘く入ったチェンジアップを見逃すはずもなく、センターに弾き返して2点タイムリー二塁打。
さらにつづく菊池が見事なセーフティスクイズを決めて、カープが3点先制した。

まさにカープが連敗中にやっていたことを、リプレイで見せられたようなシーンだった。

スワローズのマズいディフェンスというか、カープにすればラッキーなこの3点でゲームは圧倒的にカープが優位に進められるハズだった。

ところがその裏、九里が5番の雄平から3連打を浴びるなどして、あっさり3失点。
4連敗中のチームの「流れの悪さ」が露呈して、すぐに同点に追いつかれてしまった。

さらにつぎの3回裏には、またも雄平にソロホームランを喫して1点のビハインド。
優位どころか、これでカープの5連敗への流れは加速してしまった。

「またきょうも負けか」
そう覚悟したファンもすくなくなかっただろう。

そして5回にはスワローズに、絶対のチャンスがめぐってきた。

九里がこの回もしまらず、ワンヒットと四球で1アウト一、二塁。ここでワンポイントで救援した飯田も好調の雄平に内野安打されて1アウト満塁のピンチ。
スワローズにすれば大きなチャンスがめぐってきて、ここで加点して勝負を決めなければいけない場面だった。

しかし、ここでマウンドにあがった中田が6番中村を捕手へのフライ、つづく西田を三振にきって、ぎりぎり踏ん張ってみせた。

もちろん中田の気迫がまさったということだが、裏返せば突き放せなかったスワローズの側に流れの悪さがあったわけで、その源流はオーレンドルフの不用意な四球連発からの3失点にあったことは否めない。

こうなればゲームの流れは逆流してしまう。

7回に丸にひさびさの2号同点ホームランが生まれると、8回にはスワローズの守備の破綻からもぎとった1アウト満塁のチャンスに、一軍登録されたばかりの西川が2点タイムリーヒット。つづく絶好調田中もタイムリーを放って3得点して、スワローズにダメを押してカープはようやく連敗のトンネルから抜け出すことができた。

この回には西川とともに一軍にあがったばかりの野間も代走で起用されて、ホームベースを踏んでいる。
ふたりが8回のカープの猛攻の“起爆材”になったわけで、タイムリーな血の入れ替えが成功したということだろう。

まさにベンチワークのヒット。

これでカープはまたいい流れに乗って戦っていけそうだ。

                     *

ちなみに、この試合の私的MVPは中田廉投手。

この試合に限らず、彼のここまでの活躍はめざましい。
2014年シーズンの酷使がたたって肩を故障したが、部位が部位だけに正直ここまで復活するとは思っていなかった。

知人が寮近くをランニングする姿を再々目撃したといっていたが、彼の地道な努力が報われたのがうれしいではないか。





2017年4月23日日曜日

一憂を一喜する愉しみ。

4月22日の試合
広島 000000-0
東京 0000-1

勝 小川2勝2敗 負 岡田2勝1敗



きのうは寒風の中で庭仕事をしたせいで風邪でダウン。床に伏せている間にカープは完封で負けていた。

これで4連敗。ズルズル止まらないわが鼻水のように、カープの連敗も歯止めがかからない。

この試合は降雨でコールドゲームになったため7回の攻撃だったとはいえ、安打はたったの2本。
19日のベイスターズ戦では1本だったし、強打のチームがあっという間に貧打に衣替えしてしまった。

この4連敗中、カープの得点は4点。10連勝中だったら難なく1イニングで取っていた点を4ゲームを費やしてやっと取っている有様だ。
あのころの勢いがすっかり影をひそめてしまった。

先発の岡田投手は6回を1失点の好投だっただけに

「見殺しにした」

といわれてもしかたがない。

彼が初登板でアップアップだったときには、猛打で負けを消してくれた。
2連勝中は力強い援護射撃をしてくれた。

今度は岡田投手が返す番なのだが、0点では勝ちようがない。

                    *

打線は水物だ。チームだっていつも調子がいいわけではない。

「こんなときもある」

たしかにそうなのだが、その前に開幕早々の10連勝なんていう馬鹿げた大勝ちをしてしまったものだから、明暗のコントラストが強烈に感じられてしまう。

「本塁が遠い」

これをいまカープの首脳陣、野手陣は身のすくむ思いで実感していることだろう。
あれだけ勢いのあったチームが、いまは沈黙して相手のなすがままだ。

「歯車が狂ってしまった」

そうとしか思えない。

ひとつの凡プレイ、ちょっとした戦術の破綻からこの泥沼には容易に迷い込んでしまう。

ベイスターズ相手にたまたま2連敗したチームが、無意識に勝ちを焦ったことから連敗のスパイラルに引き込まれてしまったように映る。

そのきっかけは、ズムスタから神宮球場に戦地を移しての最初の試合にあったように思う。
初回にラッキーな内野安打で出た田中を犠打で送らず、二塁に憤死させてしまった采配。

「よそ行きの試合をする」

まさにそれだった。
そして、それが失敗してしまったことで、野手にいらぬ危機意識を植え付け、焦りを産んでしまったのではないか。

それが当たっているかどうかは別にして、歯車が狂いはじめたとき、それはちょっとしたきっかでズレたまま固定されてしまう。
そして、そこから元にもどすことは容易ではない。
負の連鎖というハンデを背負いながら戦わなければならないからだ。

それを自覚してのことだろうか、首脳陣はベンチのテコ入れをした。
この日、上本、下水流にかえて、野間と西川を一軍にあげた。

このふたりが連敗脱出の起爆材となれば、ベンチワークのヒットとなる。
そうなれば、こんどはまた破竹の連勝劇がはじまるかもしれない。

ペナントレース序盤から首脳陣も選手も、一喜一憂する必要はない。
戦っている当事者は、もちろんそれは自覚している。
先は長いのだ。

しかしファンは、一憂することも一喜のうち。
その日その試合が文字通りファンであり、一憂をも愉しみたいのだ。
せいぜい4連敗を嘆かせてもらおう。

                     *

これで2位ジャイアンツとのゲーム差は0.5。タイガースもそのすぐ後ろに迫っている。
もう後続チームから肩に手をかけられたようなものだ。

しびれるような緊張感が、またたまらない。

ペナントレースは、ようやく仕切り直しとなった。
ここから再スタートだ。

俄然、面白くなってきたではないか。




2017年4月22日土曜日

きっと黒田博樹投手なら…

4月21日の試合
広島 000010000-1
東京 0111000-3

勝 石川2勝1敗 負 加藤1勝2敗 セーブ 秋吉2勝0敗2S



大学時代に慣れ親しんだ神宮のマウンドではしゃぎすぎたのか、加藤投手はいつにもまして球が荒れていたように見えた。

前回の試合、あわやノーヒットノーランのときも四球だけは乱発していて81/3回を投げて7つ。
この試合は6回で5つ。

与四球率で言えばほぼ1回に1個で大差はなく、まああれがやっぱり“加藤ルール”なのだといってしまえばそれまでだが、そこに5安打がからめば失点は免れない。

それでも6回3失点のクオリティスタートはクリアしていて、データ的に評価すれば「打線が機能しなかったから負けた」と、そういうことになるのだろう。

ただその打線の弁護をすれば、あれだけマウンドで独り相撲されては、攻撃のリズムを作れない、というか集中してボックスに入るのは難しいだろう。

クオリティスタートと一概にいっても、その3点の“取られ方”にはいろいろあって、それが打線に影響を与えるのは否めない。

4回の失点は、2アウトまで簡単に取りながら下位打線相手に、すっぽ抜けのボールを連発しての連続四球で得点圏にランナーを進めて、そこにコツンと1本タイムリーをくらってのものだった。

この1点がいかにももったいなかった。
さらに、つぎの5回に鈴木誠也のソロホームランで1点差に迫りながら、その裏にすぐにホームランをお返しされて失点しているようでは、打線もいまいち乗れなかっただろう。

7回にまわってきた次の打席で鈴木が、あわや2打席連続かとスタンドをわかせた大ファウルをレフトポール際に打ち上げたが、あれが数十センチそれてしまったのも、最後の当たりがフェンスぎりぎりて失速してしまったのも、いまいち乗れなかった流れと無関係ではなかっただろう。

“加藤ルール”は、そのスタイルに慣れ親しまれてしまうと、独り相撲感がよりいっそうひきたつ。
相手バッターにはバタバタした様子が、「与し易い」という印象を与えてしまうだろう。

「打たれまいと力んで取られる3点も、打ってもらって失う3点も同じだろ。だったらもっと楽に投げてみたらどうだ」

黒田博樹氏がいま同じベンチにいれば、きっとこんなアドバイスをするんじゃなかろうか、そんなことを思いながらマウンドで力みかえって投げている加藤投手を見ていた。

                    *

どんな荒れ地にも何か作物はできるように、どんな負け試合にも収穫はあるものだ。

この試合でいえば、薮田投手の快投がそれだ。

2点ビハインドの局面、打線は下位だったとはいえ最後のマウンドをたったの8球、三者凡退で料理してみせたのには目を見張った。

そしてマウンドを降りる姿の神々しかったこと。

今年は開幕から成長ぶりがうかがえたが、なにか得体の知れない自信でもつかんだのだろうか、もう10年もクローザーをやってきたような貫禄すらあった。

中崎投手が離脱し、その代役今村投手が前回バタバタしてしまった。
そんなとき、この薮田投手の圧巻の投球が溜飲をさげてくれた。

「クローザー、いけるんじゃないか?」

まさに薮から棒が出てきたような驚きだった。

                    *

しかし、これでカープは3連敗。

気がつけばひたひたと他チームが追いついて来た、というかカープが失速して巨人、阪神がすぐ背後にせまってきた。

「ペナントレースがつまらなくなるからさ、他チームにはもっと頑張ってちょーだいよ」なんて余裕かましてた頃がなつかしい。






2017年4月21日金曜日

お祓いの塩を!

4月20日の試合
横浜 0100002002-5
広島 00003000-3

勝 三上1勝1敗 負 今村1敗1S セーブ パットン2勝1敗2S



いつからズムスタのショートには魔物が棲みはじめたのだろうか。

前日ふたつのショートゴロが“悪魔のジャッジ”になったばかりなのに、この試合でもショートへの打球がカープには凶となって勝ちに見放されることになった。

まず2回にベイスターズが先制した1点は、ショートへのゴロから生まれた。

4番筒香がレフトに二塁打、5番ロペスもレフト前に運んでノーアウト一、三塁。
ここで打席には前日の“悪魔のジャッジ”の片方の主役でもあった6番ショート倉本。

この倉本が大瀬良のカットボールを打ち損じて打球がショートに転がる間に、三塁走者の筒香が生還してのものだった。

そしてカープには致命傷となったのが7回表のショートゴロ。

2回から6回までを1被安打、1与四球と調子をあげて3者凡退のリズムに乗っていた先発の大瀬良が先頭のロペスを三振にきって、この回もすいすいいくかと思われた直後、6番ショートの倉本が放った打球が性懲りもなくショートゴロ。

これを捕球にいった田中のグラブの手が伸びきっていて、「これはやるな!」と予感した通りに田中が見事にファンブルしてしまった。

このエラーで出したランナーが、ピッチャー井納の「ここしかない」という一塁後方への信じられないようなポテンヒットで生還して、貴重なというかカープには致命的な追加点をゆるしてしまった。

ここで緊張の糸が切れた大瀬良が暴投して3点目を献上。
ここで勝負はついてしまった。

カープはその裏、一旦は同点に追いついたが反撃もここまで。
まるでショートに巣食う魔物にモグラ叩きでもされたかのように、最後は力つきた。

                   ❉

神っているというか、貧乏神の仕業としか思えないプレイが、このところズムスタのショートを起点に展開している。

獅子身中の虫という。
まさにリーグの覇者カープの本拠地ズムスタのショートの守備位置あたりに、小さな魔物が棲んでいるかのようだ。

これで今季初の連敗、2カード連続しての負け越しとなった。
さらにいえば、延長戦での敗戦も初。

初ものづくしとはおめでたいときにいうものだが、ありがたくもない初ものが怒濤のごとくやってきた。

またこの日、先発ローテの一角を締めていた床田投手が左肘内側筋筋挫傷で安静加療3週間と診断されて登録が抹消されてもいる。

「仏滅か」

まさにそんな印象だ。

カープがまだ旧いほうの広島市民球場を本拠地にしていたころ、試合前になるとスタッフが各ベースに塩をまいてお清めをしていた。

もちろん三塁で江藤智選手が顔面に打球をくらって眼窩底骨折したような大ケガがないようにとの配慮からだったのだが、めったに行かない(行けない)せいか、いまのズムスタでこれをやっているのを目にした記憶がない。

ダイヤモンドの天然芝に塩は禁物だろうから、もしかしてこの美風は失われたのかもしれないが、「お祓い」の塩をショートにまいたほうがいいのではないかとすら思う今日この頃だ。



2017年4月20日木曜日

“ショートゴロ・マジック”が警告したファンのマナー

4月19日の試合
横浜 000201001-3
広島 000000-0

勝 今永1勝1敗

負 床田1勝1敗


ベイスターズ今永投手の前に1安打と沈黙したカープは、プロ初の完封勝利を献呈してしまった。

9イニングをビシッとしめられた感じはなく、いいんだから悪いんだかわからない、とりとめのない投球の前にはぐらかされ、やり込められたような印象で、「強打のチームがやられる」典型的な試合だった。

さぞや選手も首脳陣も、フラストレーションが溜まったことだろう。

ボタンのかけちがいは、1回裏のカープの攻撃からはじまった。

1アウト一、二塁で迎えた4番新井の打席。
ここで1本ヒットが出ていれば、試合の流れはカープに傾いていたはずだったが、結果はショートゴロ併殺となってカープは先制のチャンスを逸した。

この打球がケチのツケはじめで、その後もショートへのゴロがカープの攻撃に水を差すことになった。

まずは6回裏。
代打の下水流が投前のゴロに倒れた後、1番田中の打席だった。

打球はショート倉本へのゴロとなったが、俊足の田中の足が一瞬早くベースを踏んだ。
ところが判定はアウト。

カープの攻撃の小さな芽が、これで摘まれてしまった。

つづく7回裏のカープの攻撃。
先頭バッター丸のレフトへのフライを筒香がフェンスにぶつかりながらも好捕して1アウトになったが、4番新井と5番の鈴木がたてつづけに四球を選んで、カープに大きなチャンスがめぐってきた。

ここでエルドレッドは三振に倒れたが、つづく小窪の打球はバットの先に当たったボテボテのショートゴロ。
しかしこれが幸いして内野安打になった、はずだった。

ところがジャッジは、またしてもアウト。
2アウト満塁の局面が、あっけなくもチェンジ。

ここは大きなチャンスの芽になったはずが、これも根こそぎにされてしまった。

これには緒方監督も激高して当然。
6回のときと同じくベンチを飛び出すと、一塁塁審に激しく詰め寄って猛抗議。
しかし判定がくつがえるはずもなく、それどころか「暴言を吐いた」ためプロ初の退場処分となっしまった。

そして結果は前述のとおり。
カープは今季最小の1安打で、初の完封負けだ。

                     ✲

この試合、ショートへのゴロが、ことごとくカープには鬼門となってしまった。

6回の田中のゴロは三遊間を破りそうな当たりだったが、ショートの倉本が深く守っていて好捕。
ポジショニングのファインプレーだった。

ところがショートの深い位置からの送球がワンバウンド。しかもそれがライト側にそれたのを名手ロペスがこれも好捕。
ワン、ツーとファインプレイがつづいて一塁の塁審が、つい「アウト!」を宣告してしまった。

これはわからなくもない。
ショートの深い位置で倉本が捕球したとき、すでに塁審のジャッジは“アウトモード”に入っていた。
判定も『微妙』の範疇だった。

ところが7回のケースは、微妙でもなんでもなく、あきらかにセーフだった。
果敢にヘッドスライディングした小窪がベースを抱いた後、一塁のロペスが捕球していたのだから。

反対のケースで小窪の闘志に、つい「セーフ!」ならわからなくもないが、これにはつい「ひどい!」と叫んでしまった。
悪意すら覚えていた。

とはいえ塁審も故意にやったわけではないだろう。
技術的にショートからの送球を確認するポジション取りか、それとも目の配りに難があるのかもしれない。

聞くところによると、塁審の判定は塁上のタッチは目視し、捕球のタイミングはキャッチ音で判断するようになっているという。

もしそうだとすれば、あの狂躁と歓声のるつぼと化したズムスタでは捕球のタイミングははかれない。

もしかすると、あのたてつづけの一塁の誤審はズムスタのファンが招いた“オウンゴール”だった可能性もなきにしもあらずなのだ。

今回のお粗末なジャッジのどちらもが、そのことに起因しているのかどうかはわからない。
しかし本来野球のあるべき状況とはかけ離れた異常な事態がいまズムスタで常態化していることを、このミスジャッジは警告したのかもしれない。

                     ❊

思い出すのは、公式戦がはじのまる前のオープン戦のことだ。

明石での試合だっが、左中間に飛んだ打球を追った丸と堂林が交錯しそうになったとき聞こえた丸選手の「オーライ!」というかけ声。

あの叫びが唐突に耳に入ったときの驚きと感動。

「ああ、おれは野球を観てるんだ!」

しみじみと、そう実感したときの至福の時間をあらためて思い出した。

たとえば、「カキーン!」という打球音を残してセンター前に抜けようかという強烈な打球に静まり返ったグラウンド。
そこに突然菊池が飛び出してきて見事にキャッチするやいなや、すかさずあの強肩で送球したボールが「パーン!」という捕球音を轟かせて新井のミットにおさまって「アウト!」になる。

そのときはじめて、彼の超ファインプレーをわれわれファンは十全に目撃したことになるのではないだろうか。

                     ✲

カープファンがさまざまな創意工夫によって、いまの演出にまで応援のスタイルを高めたことには敬意を表する。
しかし、そろそろ超満員のスタンドでの日々の喧噪が、そろそろ限界にきているように思う。
野球が台無しにされかねない、そんな事態にまできてしまっているように映る。

そろそろ「スタイル」から「マナー」へと目を向けてもいいころなのではないか。

ズムスタの素晴らしさは、すでに衆知されている。
一糸乱れぬファンの応援ぶりも、他球団のファンには驚きをもって迎えられてもいる。

ならばそろそろ、他球団の応援にさきがけてマナーという観点を取り入れてみてもいいのではないか。

選手へ応援歌やエールはバッターボックスに入るまでとか、投球がミットにおさまるまでは鳴りもの歓声は自制するとか、野球というスポーツが本来持っている攻守のリズムや試合の流れを踏まえたルーツづくりを検討してみてもいいのではないだろうか。

それがなったとき、はじめてカープファンは他球団のファンから本当にリスペクトされる存在になるのではないか。





2017年4月19日水曜日

ベイス今季の手応えは…

4月18日の試合
横浜 000030000-3
広島 000010-4

勝 中田2勝

負 パットン2勝1敗1S



昨季、ジャイアンツとともにやや苦戦を強いられたベイスターズとの今季初手合わせ。

今後の両チームの戦いぶりをはかるうえで試金石となる試合だったが、地力にまさるカープが最後はうったゃった。

ここ数年、着実にチーム力が充実してきているベイスターズだが、成長曲線を併記すれば、その曲線はカープの方が上回っていたことを印象づけたような試合だった。

はっきりいえば、カープが6回に1点差に追い上げたところでゲームは決したといってもいいような力の差が見て取れた。

最後の抑えに、この試合まで防御率0.00で2勝0敗1セーブ、「最終回をぱっと締めるパットン」(スポーツナビより)という新顔が控えていたものの、カープの勢いがその堰を簡単に突き破ってしまった。

ここまでベイスターズは主砲の筒香が不調で、片肺飛行を強いられているチーム状態であることは割り引くにしても、地力を天秤にかけてみたら案の定カープに傾いたというところだろう。

しかし、そのカープとて盤石な状態にあるわけではない。

この試合で3失点した野村投手は防御率3.00となってベストテンの圏外に消えた。
躍進著しい九里投手や岡田投手の派手な活躍で投手陣が健闘している印象は強かったが、これでカープ投手で防御率でベストテン入しているのは意外にも2.18の九里投手ひとりとなった。

それでも現時点で12勝3敗と、圧倒的な強さを発揮しているカープに、底知れぬ力量を思わないわけにはいかないが、こちらも片肺飛行に近いいびつなバランスで戦っていることにちがいはない。

まあ強力打線の援護で勝ち続けるうちに投手陣も調子をあげて、薄靄が晴れるようにこのベストテンのボードにひとりふたりとカープ投手の顔が並びはじめることだろうが、そのときカープが他のチームを圧してどこまでのものになってしまうのか、それはそれで恐ろしくもある。

この試合の殊勲者は試合途中に、石原にかわってマスクをかぶった会沢。
9回裏1アウト二、三塁でセンター前にキャリア初の逆転タイムリーヒットを放った。





2017年4月17日月曜日

小さなステップが生んだ大きな成果

4月16日の試合
広島 100000000-1
阪神 000001X-2

勝 マテオ2勝

負 九里2勝1敗


「3年◯◯をつづけたら本物だ。」

球界ではよく語られることだ。

「野球にタラレバはない」と譲らない解説者や関係者も、このタラだけは意外に大好物らしい。

3年スタメンをつづけたら本物さ。
3年3割をつづけたら、ようやく一流バッターだよ。
3年二ケタ勝利をあげたら、一流投手といってもいい。

これにならえば、3試合連続して好投した九里は“プチ本物投手”になったといってもいいのだろう。

3連勝はならなかったが、3試合連続好投したことで彼の前2試合の活躍がフロックではなかったことが証明されたということでもある。

残念ながらこの試合では負け投手になったが8回1/3を投げて失点2、しかも138球の熱投はクオリティースタートを凌駕して「ハイクオリティスタート」ものの投球だった。

過去、シーズン2勝が最高だった投手が、すでにこの時点でその記録に肩を並べている。
ここまで安定して投げることができ、また結果もついてくるようになったのには、さまざまな理由があるはずだ。

巷間伝えられるところによれば、黒田博樹とジョンソン、両投手から受けた“薫陶”が影響しているという。

黒田からは、完璧を求めすぎる投球を指摘された。

これまでの九里の立場からすれば、もらったチャンスでは常に結果を出さなければならない状況に置かれていたわけで、それもいたし方のないところだったのだろうが、その焦りが投球を窮屈なものにしていた。

「たまたま完璧に抑えて完封できても、ほかの試合でノックアウトされつづける投手と、いつも6回を3点で抑える(クオリティスタート)投手と、どちらが使いやすいかと思うか?」

こう問われて、九里の目からウロコが落ちた。

多少点は取られても、ピッチングをまとめられればいい、そう思えるようになってからは力まずに投げられるようになって、それが好結果につながったのだという。

ジョンソンからは、フォームのヒントをもらった。

それまでモーションに入る前にプレートから後ろに引いていた足を、一塁側に少しずらす程度にした。
そうすることで上体のブレがなくなって、スムーズに安定したフォームで投げられるようになったというのだ。

ほかにも要因はあるのかもしれないが、なによりも自分のピッチングを変えるために貪欲にフォームの改造にチャレンジした、その意欲が好結果を呼び込んだことだけは確かなようだ。

                     *

ここまで3試合の九里投手の投球内容をふりかえってみよう。

第1試合 4月2日 対阪神 6回    被安打6 与四死球4 奪三振8 失点1 自責点1 球数115
第2試合 4月9日 対東京 7回    被安打4 与四死球3 奪三振6 失点2 自責点2 球数121
第3試合 4月16日 対阪神 7回2/3 被安打4 与四死球5 奪三振10 失点2 自責点2 球数138

これを見て驚き納得するのは、試合のたびに投球数が着実に伸びていることだ。

それは安定した内容で長いイニングを投げていること。
その中で着実にマウンド体力が付いてきていることの証左といえるだろう。

いずれ完投勝利、完封勝利を記録する日も、そう遠いことではなさそうだ。

                   *

ゲームはその九里とカープには相性がいいベテラン能見投手の今季2度目の投げ合いになった。
そして両投手の好投で、ひさしぶりにしまったいいゲームになった。

結果はカープが1対2と惜敗したが、1回表にもぎとれる点を取れなかったカープと、3回に棚ぼた的に点をもらえたタイガースとの運、不運の綾が勝負をわけた。

カープは初回、タイガース先発の能見から田中が安打すると、菊池が積極的に打ちにいって連打し、ノーアウト一、二塁と大きなチャンスをものにした。

ここで丸はショートゴロに倒れたが、ランナーはそれぞれ進塁して二、三塁。
つづく新井は、まだアップアップだった能見から四球を選んで満塁とチャンスを拡大した。

ここで5番の鈴木は、能見が2球目に投じたアウトローへのチェンジアップをとらえて、「スタンドイン!」かと思わせる大飛球をレフトに打ち上げた。

これが犠飛となって、カープは1点先制。

この場面で犠飛を簡単に打てる勝負強さはさすがだといえたが、打った瞬間に「行った!」と思ったあの打球がスタンドに届かなかったのには、いささかの不満が残った。

本人は「バットの先っぽだったので、犠飛になってよかった」とコメントしていたが、外野から見ていたかぎり「好調時の鈴木だったらあれはきれいにとらえてスタンドまで運んだのではないか」との思いはぬぐえない。

つづくエルドレッドは勝負をさけられての四球で、ふたたび満塁となったが、小窪がショートフライに倒れて3アウト。
カープのこの回の得点は結局、鈴木の犠飛による1点にとどまった。

もしあの鈴木の犠飛が満塁ホームランとなっていれば、もちろんゲームの展開も結果もまったくちがうものになっていたはずだ。

あのときの攻撃に、勝負の綾があったように思う。

そして、3回裏のタイガースの攻撃についていえば‥‥

この回の先頭バッターはピッチャーの能見だったが、九里はこの能見に四球を与えてしまう。
これが誤算のはじまりだった。

九里はつづく糸原にも四球を与えてノーアウト一、二塁。
これで動揺したのか、つづく高山のピッチャー返しの打球を捕りそこねて内野安打にしてしまう。

すると動揺が連鎖して、つづく糸井のファーストゴロを新井がファンブル。本塁封殺に間に合わずに得点をゆるしてしまった。

この1点が決勝点になって負けたわけではなかったが、やらずもがなのこの1点がなければ、カープに負けるという目はなかっただろう。

九里の好投につきる試合ではあったものの、この回のちょっとしたつまずきが惜しまれてならない。

これでカープは阪神3連戦に1勝2敗。今季初のカード負け越しとなった。

2017年4月16日日曜日

岡田投手が出した“翌日回答”

4月15日の試合
広島 402100000-7
阪神 0001000-1

勝 岡田2勝

負 青柳1敗


今季のスタメンを見て、はじめて「おっ?」と興奮した。

新井がふたたびベンチスタート。
そして鈴木が4番に座ったのはさておき、安部が定位置の7番からあがって5番に。
これは想像すらしていなかった展開だ。

かわりに7番には今季初のスタメンで天谷が入った。
千両役者は大げさにしても、いよいよ百両役者のご登場といった趣だ。

その彼が初回にいきなりのタイムリーヒットでチームの勝ちを呼び込んだ。
「神ってる」の語源は緒方監督の息子さんの口から漏れたフレーズらしいが、緒方監督本人も神ってる。

                    ✱

その伏線となったのは、トップバッター田中の初球を狙い打ったセンター前ヒットだったかもしれない。

阪神先発の青柳投手の気持ちを、このヒットがいきなり砕いてしまった。

それにつづいて菊池のバントを女房の梅野捕手がフィルダースチョイス。
2走者とも生かしてしまうことになった。

ここで次打者の丸に四球は、動揺のあらわれだろう。

そこに鈴木のバットが折れる打球が襲ってきては、捕れというほうが無理だろう。
これを後逸してたちまち先制点をあげられてしまった青柳投手の気持ちも折れてしまった。

そしてとどめが天谷の2点タイムリーヒットときては、

「いったいなにしてんでしょうか?」

そう呆れられても、また失笑されても仕方がないだろう。

                  ✱

この回の阪神ドタバタ守備を、青柳投手の心理面に注目しながらあらためて振り返って見たい。

ときは2017年4月15日。お日和もいい甲子園球場。
マウンドには阪神先発の青柳投手があがっている。

「きょうはカープが相手か。いやだな、こんな化け物みたいなチーム抑えられるわけないじゃん」

と、ひとりぶつぶついいながらプレートの足下をならす。

「トップの田中さんが短い足でバットしごきながら出て来たよ。なんかストライクゾーン小さくて投げ難そうだよね」

「まずは様子見に、アウトローにストレートと」

と、カーンという乾いた音を甲子園に響かせて、打球はセンター前に。

「うっそー、初球は見るんじゃなかったの。いきなり振ってくるって、なしでしょ」

青柳投手の表情に動揺の影が走る。

「つぎは菊池さんか。あの小さなからだで一発もあるから怖いんだよね、くせ者っていうか。
でも、ここはバントで決まりでしょ。さっさとやってもらいましょっと」

と初球をインコースの高めに。

「えっ、こんどは見てくるの? 約束がちがうじゃん」

「面倒だな、このひと」

とつぶやきながら、2球目。
これを菊池がバントするとホームベースの前で転々てん、と転がる。

これをキャッチャー梅野が素早くつかんで、田中を封殺しようとセカンドに送球。
しかし、短い足を高速で回転させる俊足の田中のスパイクが一瞬早く、セーフ!

「えっ!うそ〜。一塁でしょ、梅野さん。アウト、ひとつずつ取ってきましょうよ。
しかもピッチャーおれなんですから、浮き足立っちゃいますよ、いいんですか?」

と、しっかり浮き足立ちはじめた青柳投手。

「まずいまずい、いきなりノーアウト一、二塁かよ。心臓バクバクしてノドから飛び出しそうじゃん。
しかもここで丸さんか。あの馬鹿でかい顔きらいよ。涼しい表情してるっての、それが逆に威圧感あってさ」

すっかり威圧された青柳投手はコントロールが定まらず、あっさり丸に四球を与えてしまう。

浮き足立っていた青柳投手は、この四球ですっかり舞いあがる。

「あーあ、やっちまったよ。もうなにがなんだかわからない状態です、おれ」

「いかんいかん、落ち着けよ、おれ。
冷静に状況を把握しないと、って、ノーアウト満塁じゃん。
ここで落ち着いていられるほどまぬけじゃないしな、おれは」

そのままうなだれてしまった青柳投手。

「きっと、やられちゃうんだろうね、おれ。つぎは神ってる鈴木だもんな。
あーあ、なんか頭真っ白。ボクサーがノックアウトされて昇天しそうになるって、こんな感じなのかな〜。
神に召されてって、か」

と、自嘲しつつ投げたストレートが外角の打ちごろの高さに。

「あちゃー、行っちまったよ」

一瞬目を閉じた青柳投手だったが、“ポン”という捕球音が聞こえたのみ。
この絶好球を、鈴木は見逃した。

「おお、ちょーラッキー。さすがに神ってる鈴木もスランプってか。
見逃してくれたよ、おれにもまだツキは残ってたというわけか」

小さくガッツポーズをした青柳投手。

「よっしゃー、つぎはインコースでのけぞらして、と」

そしてボールは鈴木の頭を襲おうかという厳しい球だ。
すると鈴木のバットが一閃した。

「あれ振るか〜、マジで!」

大きく開けた青柳選手の顎は、そのままはずれそうになった。
鈴木の打球はといえば、バットを折りながらピッチャー返しの打球となった。

「危っぶね〜」

青柳の視線がバットの破片に行って、集中力が一瞬切れた。

「ええっ、ボール、おれんとこに来るよ」

あたふたした青柳投手は、これを捕りそこねて、いわゆる後逸。
舞い上がって、ほぼ錯乱状態になった青柳投手の視野を掠めて鈴木がファーストベースを駆け抜けた。

これでカープが1点を先制。

落胆した青柳は、逆にそれで少し落ち着きを取り戻したか、それとも初の5番スタメンにこちらが舞い上がっていたのか、安部はあえなく三振。

「やっとひとつアウト取れたよ、やれやれ。とにかく、ひとつひとつね、梅野さん。
さてつぎは…えっ、エルドレッド?
安部さんのつぎがエルドレッドって、どういうことよ、緒方さん。打順まちがってるっしょ」

虚ろな視線でエルドレッドの巨体を見る青柳。

「ここでホームランでたら、…満塁ホームランっすよ。わかってるのかなぁ〜」

と、ちびりながら投げた青柳投手の手元がすべって、エルドレッドには死球。

「当たった方より与えた投手の方が痛いんですよ、なんて解説者はわかったようなこというけど、これは痛いなんてもんじゃなくて激痛よ激痛、致命的ね、いっとくけどさ。
たぶんもう立ち直れないな、おれ。
なんで替えてくんないのかな、金本監督。
あっそっか、まだ初回だもんな、みっともないよな、お互いに」

すでに気持ちはあさっての方に飛んでしまった青柳投手。
次の打者が誰かもわからない状態で、ただ足を上げ腕を振って本能のままに投げる。

その誰かとは、誰あろう今季初スタメンの天谷だ。
やる気ムンムン、打ち気満々、張り切りまくっている天谷への3球目が、まるで魅入られたように真ん中高めに…。

ここからの顛末は、それぞれに思い出していただきたく。

                    ✱

とまあ、長くなりましたが、こんな感じだったのでしょうか。


この阪神ドタバタ守備でもらった初回の4点で気分よく投げられたであろう岡田投手。
なんと、すいすいと113球でプロ初完投の2勝目。

それも無四球というおまけつきだ。

この岡田投手の快投。
まいどまいどの例えでもうしわけないが、労使交渉でいえば前日の加藤投手がしでかしてしまった四球乱発のふがいない投球に対するドラ1先輩からの“翌日回答”でもありました。























2017年4月15日土曜日

“加藤ルール”のリスク

4月14日の試合
広島 00100010-2
阪神 000001X-4

勝 メッセンジャー2勝 S ドリス 1敗5セーブ

負 加藤1勝1敗

カープがここまで唯一負けていたカード、そして同じ投手にまたしても破れて連勝は10でストップした。

一方、その阪神は5連勝。メッセンジャー投手は2勝目を上げた。

これで首位カープと2位の阪神とのゲーム差は2・5。
伏兵といっては失礼だが、面白いチームが追走してきた。

カープの先発は加藤投手。
ノーヒットノーラン寸前だった前回のプロ初登板はできすぎだったが、あのとき四球は7個与えていた。

この試合でも制球は定まらず6回で8個は大盤振る舞い。ここに5安打を絡められては失点するなという方がおかしい。

それでも3回の3失点以外は無難にまとめたのだから、これが加藤ルールということなのだろう。

一応はクオリティスタートはクリアしたわけで、結果はさておき及第点。
本人は試合後に、「すべては自分の責任だ」と語っていたが、それは彼の気持ちの問題だろう。
ここ最近のカープ打線の破竹ぶりを持ってすれば、勝ちゲームに転んでいてもおかしくはなかった。

メッセンジャーはといえば、加藤投手とは対照的に7回6被安打ながら四球は0にまとめていた。
これではさすがのカープ打線も付け入る隙はなかった。

これでボクシングでいえばカープ相手にワンツーパンチがヒットしたことになるメッセンジャー。
気分が悪かろうはずもなく、これからもカープにとっては鬼門となりそうだ。

中で気をはいたのが菊池。
もともとメッセンジャーには相性が良くて、昨季も9打数5安打と好結果を残している菊池。この日は二塁打を含む3安打の猛打賞の固め打ちで一矢報いた。

その菊池をタイムリーで返した新井は、通算2122安打で清原和博と並んで歴代25位となった。
今の彼に「衰え」という言葉は無縁らしい。

老いてますますお盛んな中年の星だ。
















2017年4月14日金曜日

神様は寝ていた?

4月12日の試合

広島 00000007-11
巨人 0110000-5

 勝 ブレイシア1勝1セーブ 負 カミネロ1敗4セーブ

 本塁打 松山1号 石原1号

危惧していたことが現実になった。

暫定の首位攻防戦。む
カープが巨人に3連勝してしまった。

競馬に例えれば、ガチガチ本命の最強馬がスタートから抜け出して一気に4馬身離して独走してしまったレース。
スタンドから観戦するファンとしては興も削がれようというものだ。

巨人敗戦の戦犯は、カミネロ。
巨人が1点リードで迎えた9回表にご登板されると、代打松山に投げた初球が大好物の真ん中低めのストレート。

ここまで絶不調の松山といえども、さすがにこれは逃しません。
バット一閃、白球はライトスタンドに突き刺さるホームラン。

このたった1球で巨人の勝ちをなくしてしまったカミネロ。
つづいて田中には四球を出スト、菊池の犠打をご丁寧にもファンブルしてピンチのお膳立てをすると、丸には綺麗に逆転タイムリーを献上する始末。

この回7得点して巨人を差し脚でマクッたカープの攻撃が「神っていた」ならば、駄馬のごとく寝ていた神がカミネロとでもいうんでしょうか。

一方、カープで勝ち投手となったのは、やはり今年から加入のブレイシア。
ここ最近の両チームのスカウティングの成果の目の当たりにしたように思ったのは著者だけなのだろうか。












2017年4月13日木曜日

盟主交替の狼煙

4月12日の試合

広島 020-9
巨人 0030000-5

 勝 床田1勝 負 内海1勝1敗

 本塁打 新井2号、3号 エルドレド3、4号


新井が4番の定番オーダーでカープは、また快勝した。

立役者となったのは、その新井。
たったの1試合ベンチを温めただけで、これほどの気分転換、リゲインできるのか、前日ケチョンケチョンだったエルドレットと仲良く2打席連続のアベックホームランとは恐れ入った。

カープ初優勝の1975年、初栄冠獲得の狼煙となったのはオールスター戦での山本浩二、衣笠祥雄の2打席連続のアベックホームランだったが、ペナントレース開始早々に連覇の狼煙が上がってしまったと言えそうだ。

カープの強さばかりが際立った、巨人相手の2連勝。
どちらの試合も巨人が先制したが、カープはあっさり逆転。
なんとか巨人は食らいつくが、カープが突き放し、最後はダメを押して勝ちきった。

相撲に例えれば、横綱相撲でカープは巨人を寄り倒し。
これで引き分けを挟んで9連勝。暫定首位攻防戦の勝ち越しを決めた。

どちらも直接対決までは他チームを圧倒してきたから、がっぷり四つに組んでの力戦を期待したが、胸を合わせてみたら意外に巨人は腰砕けで、あっさり土俵を割ってしまった。
なんだか肩透かしを食らったような心境だ。

食い足りない。
正直、そんな印象が強い。

もしここでカープが3連勝でもするようなことがあれば、ペナントレースの熱気は序盤から削がれてしまうのではないかと、あらぬ不安すら抱いてしまった。

去年優勝したチームが地力を発揮しているのと、たまたま調子が良かっただけかもしれないチームとでは、比べるべくもないのだろうか。

ここ最近いわされていることだが、巨人はすっかり『盟主』という呼称が似合わなくなった。

今はカープが強すぎるといってしまえばそれまでだが、ここ最近どうにも骨太のチームに仕上がらない。
カープのように若手がバンバンに育ってきているわけでもなく、かといって補強がうまくいっているようにも見えず、海の向こうから連れてくる助っ人も大当たりしたためしがない。

試合後のヒーローインタビューで、プロ入り初勝利を挙げた床田投手が気の利かないインタビュアーに、「巨人戦ということで、特別に意識はしましたか?」とつまらない質問をされて、苦笑いしながらにべもなく否定していたのは、まさにそう答えるしかなかったからだろう。

彼のような若い選手には、もはや巨人が揺るがぬ盟主であった時代は遠い昔のおとぎ話なのだろう。

その呼称が似合うかどうかは別にして、今球界の盟主となろうとしているのが他ならぬカープだ。

くだんのインタビュアーがいみじくも認めていた。

「カープはこれで9連勝。強いチームに入りましたね」

この言葉が、多くのファンの実感だろう。

巨人の不甲斐なさをここで並べても仕方がないが、ざっと見渡してみた感じでは、それでもやっぱりカープに拮抗するチームの筆頭は巨人だろう。

その巨人には、もっと頑張ってもらわないと困るのだ。

                     ❉

ところで、前日は4番で期待に違わぬ活躍をした鈴木誠也。

この日は結果は出なかった。
たまたまの1試合のことだか、どうもこのところボールが上がらなくなっているようで、いっとき調子を落としそうで、気にはなる。
















2017年4月12日水曜日

さっそくの「4番鈴木」

4月11日の試合

広島 0630-9
巨人 013000-6

 勝 中田1勝 負 森福2敗 S 今村

 本塁打 菊池1号 中井2号



まさかこんなに早く、その日が訪れるとは思わなかった。

シーズン開幕当初に予想したように、鈴木がさっそく4番に座った。

「まだ荷が重いかな?」
なーんて、ババアでもないのに老婆心をのぞかせてしまったが、新4番の重圧に圧し潰されることもなく、鈴木のお坊っちゃまは3安打2打点のご活躍。 
案ずるよりは西川やすしで、立派に元服された。

これで若干23才の、若き4番打者の誕生だ。

球界でもっとも若い4番バッターといえば、元近鉄バファローズの土井正博の19才だったと記憶するが、その彼が打撃コーチとして中日ベンチで苦虫を噛み潰したような顔をしていたのが記憶にあたらしい。

それはさておき、鈴木のおぼっちゃま。
いまのところ新井爺やの代役で、このままここに座りつづけることはないだろし、きょうにもオーダーは元にもどるはずだが、とりあえずは代替わりはノープロブレム、それが確認できたことは収穫だっただろう。

                     ✲

ところで試合の方はどうだったか。

シーズンのラストスパートでは、しのぎを削ることになるであろう両雄の初手合わせ。
その暫定首位攻防戦は、ボクシングでいえばハードパンチャー同士の壮絶な打ち合いだった。

はじめは様子見のジャブの応酬といったところ。
巨人がややポイントをかせいでいたが、中盤は首位を争うチームらしい意地の殴り合いになった。

カープは5回まで5安打無得点と、ほぼ完璧に抑えられていた菅野を6回に一気に攻略。
 
「菅野じゃ、物足りないですがの」(シャレのつもりです)

といわんばかりに、打者一巡+一人の猛攻で一挙6点をあげた。 

起点となったのは、新4番の鈴木坊っちゃまだった。
 
この回のトップバッターでレフト前にヒットで出ると、松山が四球を選んでノーアウト一、二塁。
このチャンスにエルドレッドが三振に倒れたのは想定内。
つづく安部の一塁ゴロを巨人の阿部が“アベ友”よろしくフィルダースチョイスしたのは想定外で、これで鈴木が帰ってまず1点。

ここで「いつもは4番ですよ」の新井が石原の代打で登場し、サードゴロに倒れて2つ目のアウトを進呈したのはご愛嬌。
ベンチは一気に攻勢をかけて、先発野村の打席で代打に小窪キャプテンを送れば、べべん、べん、その小窪が外角低めのストレートをうまくライトに運んで2点タイムリー三塁打どわぁ〜。

さらに打順トップにもどって田中が四球を選ぶと、巨人はたまらずエース菅野に替えて、よく知らない谷岡に。

ここで2番の菊池がセンターに運んでさらに1点。

次打者丸が四球で出ると、この回2度目の打席となった鈴木のおぼっちゃまがセンターを破るタイムリー二塁打で2点追加。
お坊っちゃまは、しっかり4番の仕事をしてくれたのでありました、べべん、べん。

ここで松山にかわった堂林が四球で出て、ふたたび満塁となったものの、エルドレッドがお約束の三振をして、ようやくカープの攻撃が終わったのでありました。

これでカープが6対3と大逆転。

ところがどっこい、その裏に野村投手をリリーフしたヘーゲンスが大乱調。
1アウトもとれないままで3失点。無限大というか、記録にならない防御率をひっさげたまま降板する体たらくで、たちまち同点とされてしまった。

まさかそんな展開になろうとは思ってもみ中田投手(お汲みください)、あわただしくマウンドに行くはめになったものの、べべん、べん、見事な火消しでピンチを切り抜けた。

するとその好投に報いんと、ふたたび小窪キャプテンが執念のタイムリー、そして巨人にはめっぽう強い小兵の菊池兄ぃが2ランホームランをぶっぱなして、カープはあっという間に3点追加して、ふたたび3点のリード。

これがフィニッシュパンチとなって、巨人を見事にマットに沈めたのでありました。

それにしても、カープは強い!

いっこうに調子があがらないクローザーの中崎にかわって、きのうは今村が最終回のマウンドにあがったが、こちらもノープロブレム。
前の回を投げた薮田もバッチリで、巨人ベンチは菅野を立てての敗戦のショックばかりか、カープの選手層の厚さをまざまざと見せつけられることになったのでありました。

                     ❇

ところで場面は5回のカープの攻撃にもどる。

あのときスコアボードに5番松山の代打に出た堂林の名が映し出されて、丸、鈴木、堂林のクリンナップがビジュアルとして実現した。

ある意味、近未来の期待のクリンナップともいえるオーダーでもあったけで、いちファンとしては心躍ったことを、ここに明記しておかねばならないだろう。

そして、九里亜蓮の好投につづいた中田廉の勝利(シャレも入ってます)。
故障して一度はどん底に落ちた彼に真の復活のときが訪れたことを、ともに歓びたい。