2017年4月16日日曜日

岡田投手が出した“翌日回答”

4月15日の試合
広島 402100000-7
阪神 0001000-1

勝 岡田2勝

負 青柳1敗


今季のスタメンを見て、はじめて「おっ?」と興奮した。

新井がふたたびベンチスタート。
そして鈴木が4番に座ったのはさておき、安部が定位置の7番からあがって5番に。
これは想像すらしていなかった展開だ。

かわりに7番には今季初のスタメンで天谷が入った。
千両役者は大げさにしても、いよいよ百両役者のご登場といった趣だ。

その彼が初回にいきなりのタイムリーヒットでチームの勝ちを呼び込んだ。
「神ってる」の語源は緒方監督の息子さんの口から漏れたフレーズらしいが、緒方監督本人も神ってる。

                    ✱

その伏線となったのは、トップバッター田中の初球を狙い打ったセンター前ヒットだったかもしれない。

阪神先発の青柳投手の気持ちを、このヒットがいきなり砕いてしまった。

それにつづいて菊池のバントを女房の梅野捕手がフィルダースチョイス。
2走者とも生かしてしまうことになった。

ここで次打者の丸に四球は、動揺のあらわれだろう。

そこに鈴木のバットが折れる打球が襲ってきては、捕れというほうが無理だろう。
これを後逸してたちまち先制点をあげられてしまった青柳投手の気持ちも折れてしまった。

そしてとどめが天谷の2点タイムリーヒットときては、

「いったいなにしてんでしょうか?」

そう呆れられても、また失笑されても仕方がないだろう。

                  ✱

この回の阪神ドタバタ守備を、青柳投手の心理面に注目しながらあらためて振り返って見たい。

ときは2017年4月15日。お日和もいい甲子園球場。
マウンドには阪神先発の青柳投手があがっている。

「きょうはカープが相手か。いやだな、こんな化け物みたいなチーム抑えられるわけないじゃん」

と、ひとりぶつぶついいながらプレートの足下をならす。

「トップの田中さんが短い足でバットしごきながら出て来たよ。なんかストライクゾーン小さくて投げ難そうだよね」

「まずは様子見に、アウトローにストレートと」

と、カーンという乾いた音を甲子園に響かせて、打球はセンター前に。

「うっそー、初球は見るんじゃなかったの。いきなり振ってくるって、なしでしょ」

青柳投手の表情に動揺の影が走る。

「つぎは菊池さんか。あの小さなからだで一発もあるから怖いんだよね、くせ者っていうか。
でも、ここはバントで決まりでしょ。さっさとやってもらいましょっと」

と初球をインコースの高めに。

「えっ、こんどは見てくるの? 約束がちがうじゃん」

「面倒だな、このひと」

とつぶやきながら、2球目。
これを菊池がバントするとホームベースの前で転々てん、と転がる。

これをキャッチャー梅野が素早くつかんで、田中を封殺しようとセカンドに送球。
しかし、短い足を高速で回転させる俊足の田中のスパイクが一瞬早く、セーフ!

「えっ!うそ〜。一塁でしょ、梅野さん。アウト、ひとつずつ取ってきましょうよ。
しかもピッチャーおれなんですから、浮き足立っちゃいますよ、いいんですか?」

と、しっかり浮き足立ちはじめた青柳投手。

「まずいまずい、いきなりノーアウト一、二塁かよ。心臓バクバクしてノドから飛び出しそうじゃん。
しかもここで丸さんか。あの馬鹿でかい顔きらいよ。涼しい表情してるっての、それが逆に威圧感あってさ」

すっかり威圧された青柳投手はコントロールが定まらず、あっさり丸に四球を与えてしまう。

浮き足立っていた青柳投手は、この四球ですっかり舞いあがる。

「あーあ、やっちまったよ。もうなにがなんだかわからない状態です、おれ」

「いかんいかん、落ち着けよ、おれ。
冷静に状況を把握しないと、って、ノーアウト満塁じゃん。
ここで落ち着いていられるほどまぬけじゃないしな、おれは」

そのままうなだれてしまった青柳投手。

「きっと、やられちゃうんだろうね、おれ。つぎは神ってる鈴木だもんな。
あーあ、なんか頭真っ白。ボクサーがノックアウトされて昇天しそうになるって、こんな感じなのかな〜。
神に召されてって、か」

と、自嘲しつつ投げたストレートが外角の打ちごろの高さに。

「あちゃー、行っちまったよ」

一瞬目を閉じた青柳投手だったが、“ポン”という捕球音が聞こえたのみ。
この絶好球を、鈴木は見逃した。

「おお、ちょーラッキー。さすがに神ってる鈴木もスランプってか。
見逃してくれたよ、おれにもまだツキは残ってたというわけか」

小さくガッツポーズをした青柳投手。

「よっしゃー、つぎはインコースでのけぞらして、と」

そしてボールは鈴木の頭を襲おうかという厳しい球だ。
すると鈴木のバットが一閃した。

「あれ振るか〜、マジで!」

大きく開けた青柳選手の顎は、そのままはずれそうになった。
鈴木の打球はといえば、バットを折りながらピッチャー返しの打球となった。

「危っぶね〜」

青柳の視線がバットの破片に行って、集中力が一瞬切れた。

「ええっ、ボール、おれんとこに来るよ」

あたふたした青柳投手は、これを捕りそこねて、いわゆる後逸。
舞い上がって、ほぼ錯乱状態になった青柳投手の視野を掠めて鈴木がファーストベースを駆け抜けた。

これでカープが1点を先制。

落胆した青柳は、逆にそれで少し落ち着きを取り戻したか、それとも初の5番スタメンにこちらが舞い上がっていたのか、安部はあえなく三振。

「やっとひとつアウト取れたよ、やれやれ。とにかく、ひとつひとつね、梅野さん。
さてつぎは…えっ、エルドレッド?
安部さんのつぎがエルドレッドって、どういうことよ、緒方さん。打順まちがってるっしょ」

虚ろな視線でエルドレッドの巨体を見る青柳。

「ここでホームランでたら、…満塁ホームランっすよ。わかってるのかなぁ〜」

と、ちびりながら投げた青柳投手の手元がすべって、エルドレッドには死球。

「当たった方より与えた投手の方が痛いんですよ、なんて解説者はわかったようなこというけど、これは痛いなんてもんじゃなくて激痛よ激痛、致命的ね、いっとくけどさ。
たぶんもう立ち直れないな、おれ。
なんで替えてくんないのかな、金本監督。
あっそっか、まだ初回だもんな、みっともないよな、お互いに」

すでに気持ちはあさっての方に飛んでしまった青柳投手。
次の打者が誰かもわからない状態で、ただ足を上げ腕を振って本能のままに投げる。

その誰かとは、誰あろう今季初スタメンの天谷だ。
やる気ムンムン、打ち気満々、張り切りまくっている天谷への3球目が、まるで魅入られたように真ん中高めに…。

ここからの顛末は、それぞれに思い出していただきたく。

                    ✱

とまあ、長くなりましたが、こんな感じだったのでしょうか。


この阪神ドタバタ守備でもらった初回の4点で気分よく投げられたであろう岡田投手。
なんと、すいすいと113球でプロ初完投の2勝目。

それも無四球というおまけつきだ。

この岡田投手の快投。
まいどまいどの例えでもうしわけないが、労使交渉でいえば前日の加藤投手がしでかしてしまった四球乱発のふがいない投球に対するドラ1先輩からの“翌日回答”でもありました。























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