2017年4月30日日曜日

書き加えられるカープ4番の系図

4月29日の試合
広島 200100120-6
横浜 0000010-1

勝 岡田3勝1敗 負 今永1勝2敗 

本塁打 菊池2号 鈴木3号・4号 新井4号 


前日と攻守入れ替わってカープの大勝、快勝だった。

初回に菊池の2ランホームラン。
そして4回には鈴木のソロ。
7回には新井のバックスクリーン直撃のドでかいホームランが出て、仕掛けのいい花火を見てボルテージがあがったところに、鈴木選手にまたもや2ランが飛び出して、真っ赤なスタンドの興奮もレッドゾーンを振り切れてしまった。

へたするとあのとき失神してしまったファンもいたのではないか。
そんな心配をしてしまうほどのカープの攻撃ぶりだった。

ホームランが計4本の“グランドスラム”。前回完封負けを喫した今永投手を一蹴してしまった。

しかもスタメンに新井、鈴木が並ぶオーダーで鈴木がはじめて4番に座った試合。
そこでのこの快挙。

「恐れ入りました」
というしかない。

いままでは代役でしかなかった鈴木選手の4番。
ところがこの日、指揮官は正式に4番打者決定最終レースのスタートの号砲を鳴らした。

そこで気持ちが空回りすることなく、重圧につぶされることもなく、2本のホームランで結果を出した鈴木選手。
まだまだ負けんぞと、破格の飛距離で応じた新井選手。

これほど見応えのある1幕の劇がグラウンドという舞台で、バットとボールという小道具を使って演出できることに、あらためて野球の素晴らしさを感じざるをえない。

そして、それを演じて見せた、ふたの名優にはスタンディングオベーションだ。

                    ✱

カープ球団が創設されてから、幾多の打者が開幕スタメンで4番のスコアボードを飾ってきた。

はじめて4番らしい4番として歓呼の声で迎えられたのは小鶴誠だろう。
市民からの寄付を集めた樽募金を資金に、松竹ロビンスから獲得したスラッガーだった。

それからは藤井弘、大和田明、興津達雄が入れ替わる群雄割拠時代があった。そしてそこに地元出身の野球エリートだった山本一義が割って、ダンゴ状態がしばらくつづいた。

そして1971年に根本陸夫監督が若き長距離砲に成長しつつあった衣笠祥雄を大抜擢。自前で育てた本格的な主砲の誕生だった。

やがて衣笠・山本の両輪時代となって、初優勝の1975年のシーズン途中に山本浩二が4番に入るようになった。
そして翌年、開幕スタメンで山本が4番に名を連ねると、それから引退する1986年まで、カープの4番は長く彼の指定席だった。
この時期はまた、カープの黄金時代と重なる。

しかし、山本浩二がチームを去ったあと、カープの4番は日替わり年替りになった。

外国人で埋められたかと思えば、小早川毅彦、長内孝が頭角をあらわしたこともあった。
しかし誰も長続きはせず、ときには前田智徳がつとめたこともあった。

ようやく主砲らしい4番が復活したのは1995年からの江藤智だった。
彼があらわれたことで、しばらくカープの4番は安泰かと思われた。
しかし1999年にFAで手放したカープは、また真の4番不在のチームとなった。

江藤のあとの4番を埋めたのが金本知憲だった。
さいわいにも、彼はすぐに穴埋め4番から真の4番へと成長した。

これでまたしばらくはカープの4番は安泰かと思われたが、彼も2002年を最後にFAで移籍。
相次いでの主砲の喪失は、カープの弱体化に拍車をかけた。

このとき“貧乏くじ”を引かされて4番に起用されたのが新井貴浩だった。
時期尚早だったのか、プレッシャーにつぶされたのか、彼は結果を出せずに4番落第となり、しばらくは外国人選手がとっかけひっかえ状態。
カープが『補強』ではなく『補填』をしてお茶を濁していた時代だ。

ようやく新井が2007年に開幕スタメン4番に復帰したものの、そのオフにはFAでタイガースに移籍しまった。
ここは栗原がうまく引き継いでくれたが、2012年に彼が故障で離脱すると、またカープは4番不在に。

そしてご存知のように2015年に復帰した新井が地力ではいあがって、今年の開幕4番をつかんだ。
そして、いま鈴木がそれにとってかわろうとしている。

江藤がFAで去ってから、カープの4番は常に「与えられるもの」だった。あるいは消去法での起用だった。

それが今回は、ひさしぶりに競い合っての当確争い。同じフィールドに立ちながらソフトランディングして新旧交代を果たそうとしている。

もっとも望ましいかたちでの4番争いといえるだろう。

この4番の座を賭けての主砲レース。
ペナントレースとはまた別な興趣を、カープファンはしばらく愉しめそうだ。

そして、新井選手が精根尽き果てて見事に破れたそのときには、あらためて慰労と感謝とを込めて大きな拍手を贈りたい。

                     ✱  

そえそう忘れてました、先発岡田投手。
こちらも脱帽もの投球だった。

惜しくも完封、完投は逃したものの8回を被安打6の1失点。四球はたったひとつという安定したピッチングでチームトップの3勝目をあげた。

ゆったりしたフォームから投じられるスピードボールの威力とコントロールされた配球。
ほれぼれと見ながら、つい前日の加藤投手のことを思って“膝ポン”してしまった。

「ここにいいお手本があるじゃないか」と。

岡田投手も今季初登板の試合では、苦い経験をした。
そこからすぐに気持ちも修正した。

抑えようと力むんじゃなく、力まなくても抑えられる。

そのことを岡田投手が身をもって示してくれていた。


                      ✱


勝手に恒例にした『この試合の私的MVP』は鈴木誠也選手だ。




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